2000年下期 青山俳句工場向上句会超特選大会

(非売品:売ってはいけない。)

青山俳句工場向上句会、最後の超特選大会をお送りします。

第27-30までの4回分の句会から、特選句に選ばれたものを一覧にして、一句 のみ選出してもらいました。

工場長題はそれぞれ「車」「月」「虫」、また、第30回は、向上題として「世」。

一句題詠、一句自由詠の出句ですので、半分が題詠です。

1997年暮れにホームページを開いて、1998年1月から、向上句会と称してネッ ト句会を開催してきました。

21世紀を迎えるまでの3年間、毎月欠かすことなく、30回の句会と、5回の超 特選大会を開催しました。

行き当たりばったり、手探りでの3年間でした。

ネット上の掲示板での議論が白熱し、苦々しい思いをされた方も数多くいらっ しゃったことと思います。すべて、思い出の箱の中に、納めていただければと 思います。

年齢の壁を超え、何より地域の壁を超えて、短い期間ではありましたが、共通 の場を持つことができました。集計作業を通じて、わたし自身がたくさんの勉 強をさせていただきました。参加してくださったすべての皆さんに感謝いたし ます。ありがとうございました。

尚、青山俳句工場HPは、2001年3月を持って、活動を休止します。

向上句会の記録は、ネット上に別途、残しておこうと思います。

http://onlysky.info/kojo/

懐かしくなったら、またアクセスしてみてください。

皆様のより一層のご健吟を祈りつつ。

2001.3.11

山口あずさ 

   

感想協力:宮崎斗士、満月(入江一月)、健介、けん太、凌、齋藤朝比古、一 之、足立隆、ぴえた、杉山薫、千野 帽子、古時計、合歓、山本一郎、子壱、室田 洋子、(h)かずひろ、M.s.K.、いしず、いちたろう、パーシー、ひつじ、 みずくらげ、守、秀彦、秋、小島けいじ、神山姫余、竹軒、藤井清久、風子、 明虫、夜来香、遊月、Mitsuhiro、山口あずさ

全体的な感想

斗士:山口あずささん、そして参加者のみなさま、どうもありがとうございま した。

満月:みなさま、個人的に忙しくこのところ参加できないままに最後の選句を 迎えてしまいました。いろいろなことがありました。が、向上句会は私がNE T生活に入る直接のきっかけでもありました。最初はniftyの俳句フォーラムを 場としてさまざまな考えに触れ、啓発され、それから劇的とも言える3年間を 過ごしました。たくさんのできごと。。時は移り。向上句会は終わっても、ど


こかでみなさま、またお会いしましょう。

けん太:最終回だと思うと・・・。たくさん残したい句がありました。「煮干 し」も「石榴」も「雪女」も・・・。とにかく長い間お世話になりました。結 社に属していないボクの俳句をみなさんが支えてくれたと思っています。みな さん、ありがとうございました。また、お世話をしていただいた方々、ご苦労 様でした。機会がありましたらまた、ぜひお誘いください。けん太こと松山た かし。

(h)かずひろ:山口あずさ様、青山俳句工場スタッフの皆様、投句選句者の皆 様。第22回向上句会からの短い間でしたが、一方ならぬご厚誼、ご厚情、あ るいはご教導を賜り、深く感謝いたします。ありがとうございました。

けいじ:これで終わりなんですよね。幕が下りるのは寂しいけれど、今まで楽 しかったです。あずささん。みなさん。お疲れ様でした。またどこかの句会で 会いましょう。

隆:65句から一句選ぶのは至難の技。とはいえ、超特選句会を幾度も経験し、 一句を選ぶこつも自分の中では出来て来たように思います。説明せよと言われ ても説明は出来ないが。今回はそれほど迷うことなく<ストライクゾーンを壁 に描く晩夏>に決定しました。他には、<青いホース>が気になりました。ま た、今回は4句も特選を頂き感謝しています。

ぴえた:最近は短歌の締め切りを忘れても、この向上句会の締め切りは忘れま せんでした。ほんとうに残念ですが、また再開される日もあると信じて、心よ りお礼申し上げます。おつかれさまでした! (今回、自分の句が)いっぱい あってうれしかったです。選んで下さったみなさん、ありがとう!

ひつじ:思いがけず参加させていただけて、驚きでした。さすが超特選大会、 というような顔ぶれ(句ぶれ?)がためいきものです。

帽子:山口様、3年間お疲れさまでした。みなさま、たいへんお世話になりま した。

みずくらげ:私事ですが、一月二十八日に心筋梗塞で緊急入院(五年前にも やっていますので二度目です)。なかなかくたばるタマではないので、一昨日 一時退院。明日二十七日外科手術のため別の病院へ入院というあわただしい中 での選句になりました。これは余談ですが、三分の二以上を壊死した我が心臓 は、一ヶ月ぶりの妻に対して発情。健気にも下腹部へ血液を必死に送り込んで いるのです。いやがる…いえ、腹上死を恐れる妻をねじ伏せてOYes。

一郎:2年間ほど俳句という世界で遊ばせてもらいました。途中から脱落して しまった私ですが、最終回ということで参加しました。ありがとうございまし た。

薫:今回で終わりってさびしいですが、またネットのどこかでお会いできたら うれしいです。遊んでいただいた皆さん、ありがとうございました。あずささ ん、さまざまな楽しい企画、ありがとうございました。

合歓:こんにちは。第29回に一度だけ投句させて戴いた際、二句共選んでい ただけて大変嬉しかったです。皆さまの感想を聞くことができてとても参考に なりました。その後メールを頂いたにも拘らず選句に御協力できずに申し訳ご ざいませんでした。今回が最後とのこと、大変残念です。また機会がありまし たら是非参加させてください。どうもありがとうございました。

秀彦:向上句会に二回だけ参加しました。終わってしまったことが残念です。 また時をあたためて再開してほしいと願います。お疲れさまでした。


秋:あずささんに、感謝感謝です。本当に長いことお世話になりました。必ず、 また、再開してくださいね。お元気で。

竹軒:始めまして。 最後の句会と云うことで覗かせて頂きました。 失礼が ありましたらお許し下さい。

朝比古:今回を限りに、向上句会への投句も選句もできなくなってしまうんで すねぇ。とても残念ですが、とにかくあずさサンに大感謝。こちらに参加させ て頂いて、皆さんの忌憚無い意見を拝聴しつつ、自句を見つめ直す機会を頂け たことは、今後の作句に活きてくることと思います。本当にありがとうござい ました。 厚かましいようですが、もしも復活するようなことがありました ら、お声を掛けていただきたいなぁなどと思っております。

明虫:青山俳句工場向上句会が終わってしまうんですか?しばらく多忙をか こってアクセスをしないでいたら、そんな話になってしまっていました。私個 人としてはこの句会への投句回数は数えるほどしかなかったのですが、ものす ごく勉強になりました。この句会では純真っぽい比ゆ(たいていの句会では大 いに賞賛されたりするのだが)は集中砲火を呼び起こし、広がりのない俳句は 「それで?」という暖かくも辛らつな励ましを受けるという次第。もっとも鉄 火さんがほんとうの意味で励ましをしてくれたのも記憶に残りました。千野帽 子さんの批評には大いに学ばせていただきました。二三年前、はじめてこの句 会をHPで見たときは新鮮さに驚いたものでしたが、だんだん目もなれてきた せいか(あるいはおそらく客観的にも)最近は刺激が少なくなっていたのも正 直なところです。最近数ヶ月は投句していませんでしたが(この句会ではそう とう集中力を高める必要があり、気楽には出せなかったのも理由ですが)、ほ かのところで句を作るときにはいつも向上句会に出したらどういう反応を受け るか、ということを考えながら作るようにしていました。たとえば最近作った 句、「怪僧サヴォナローラを生んで枇杷咲けり」 明虫  

遊月:ここの句会に参加したのは29回からで、とても短かったけれど、いろ んな傾向の句といろんな方々の考えに触れることができて刺激的でした。俳句 を作り始めて一年になりますが、自分の読みの幅が狭いな、と感じているとこ ろです。

清久:意欲的な句が多い点で好感がもてる。だが、独りよがりの句も散見され る。

風子:向上句会閉鎖されるのですか。寂しい気がします(といっても小生は昨 年前半に3度ほどしか投句していないのですが)。青山俳句工場向上句会を探 し当てたのが一昨年、とても感動的でした。俳句のありようにこのようにチャ レンジしている人たちがいるのだ、と。おじいさん、おばあさんの余技の中に 浸りきっているような閉塞感、立て直しのお風呂のぬるぬるしたお湯でいたわ りあうような結社句会に、自分もすっかり同化してしまうのではないかという 漠然とした不安感を抱いているとき、向上句会は強烈な刺激でした。勇気を出 して2,3度投句してみました。しかし常識に慣れ親しんできた身には、向上 句会の感性に追いつくことにはかなりの緊張を必要としました。そのごは投句 をしないまでもときどきは覗き見をさせていただいては、自分の句作の検証の 参考にさせていただいていました。永いあいだありがとうございました。

子壱:山口あずささん、本当に有難うございました。最後のほうで少し参加し ただけでしたが、刺激になりました。


超特選3点句

泣きさうと言はれて泣く子草の花   白井健介

けいじ 秋 子壱 

けいじ:まっさらに65の特選句を見たときに、一番気に入った句。当り前 の選句法なのかも知れないけど今まで少しだけ理屈で考えてたとこもある ので、今回は感(勘じゃないよ)で。65もの特選句の私の1番。嬉しい? 私は、そういう選句を最後にしてみて嬉しい。・・・なに言ってるかわから ないですかね。

秋:「劇団に柘榴の夜のありにけり」とどちらにしようか迷った。劇団の句 はすばらしい感性の詠み取り。「草の花」の句はやさしい叙情、「泣きさう と言はれて泣く子」にかるい屈折があり、それがユーモアのようでやさし い。季語がうまく生かされている。読後感のなんとも言えぬ爽やかさでこ の句を頂くことにした。

子壱:色々悩みましたが、この句を特選とします。「孔雀鳴く・・」とどち らにしようか難しかった。素直に昔の子供の頃のイメージが湧いてきまし たので。草の花とも相性が良い。荒ぶる言葉は沢山並ぶと、少し疲れて来 ますね。

健介(自解)過分とも思える評価を戴き(マジに)予想外の高点で終盤を 飾ることができ、本当に嬉しく思っております。自解を要さぬほどに、採っ て下さった皆様の選評に尽きていると思いますので……。

団栗はポストに入れないで下さい   ぴえた

ひつじ みずくらげ 斗士 

ひつじ:いろんな方がいろいろ書いていらっしゃるので、今更私は何 も・・・。こんなことかいてあるポストに出会いたいです。

みずくらげ:これほど素朴に感情移入できた経験はあまり記憶にありませ ん。これが出会いというものでしょう。繊細なやさしさを、素直に何の衒 いもなく自分が受け取れた驚きとの出会いです。

斗士:団栗のような手紙がほしくなった。一個でもたくさんでも「団栗」は 投函したひとの真摯な思いを伝えてくれる。団栗には何を返せばいいのだ ろう?考え中。

超特選2点句

いなびかり失恋体操しています   洋子

一郎 あずさ 

一郎:生きることのたよりなさ、寂寥感、さみしさ、そんなものがひしひ しと伝わってくる。この作者の俳句世界ならもっともっと覗いてみたい。

あずさ:お、いっち、に、さん、しっ、ポキっ。超特選です。

洋子(自解):「失恋体操」ってどんなの?!と聞かれましたが「それは言え ないなあ」想像してください。


小春日のモデルの無理な姿勢かな   朝比古

けん太 竹軒 

けん太:最後なので、ボクの記憶の中にとどまってくれるであろう、そん な句をと思って慎重に選びました。「無理な姿勢」がいいですね、やはり。 モデルに無理な注文を結構平気でしてしまうんですボクも。モデルの人た ちって、笑顔でそれを受けてくれるんです。でも、きっとウラで悪口を言っ ているんでしょうね、彼、彼女らも。そんな複雑な心のやりとりをしてし まう小春日。そう。それは小春日でなくてはなりません。この句はそこが いいなあ。

竹軒:小春日と云うことで裸女のモデルを想像しています。 それが無理 な姿勢を強要されていると云う事に些かサジスティックな興味を引かれま した。 

あずさ:不自然な体制で静止しているモデルを思い浮かべると、微笑まし いとういより、とても苦しい気持ちになる。

朝比古(自解):「無理な姿勢」は非常に説明的で自分ではあまり好きではな い句の形。片手を腰にあてて、満面の笑みで後ろを振り向いているような、 ファッション雑誌によくあるポーズをイメージして作った句です。あの恰 好って普通じゃまずやらないですよねぇ。

ガラス吹く此の世彼の世の夢あつめ   またたぶ

守 洋子 

守:う〜ん…俺に似合ってる。(笑)このガラスは、何をうたったものかねぇ。 何かの例えだと思うが。なんにしても、「夢を集める」ってのがいいね。いやぁ、 幸せな人間だ、俺は。(笑)

洋子:吹きガラスは確かに夢を集めたような感じ。「此の世彼の世が好きです」

あずさ:fragileな夢と幻。

劇団に石榴の夜のありにけり   宮崎斗士

朝比古 凌 

朝比古:用意周到にはりめぐらされた伏線。作者の策略に見事にはまって しまう私。劇団員が石榴を食べていてもよし、石榴の夜を観念で捉えても よし。韻文としての俳句の力を再確認させて頂きました。

凌:この句会に相応しいやわらかな言葉の遊び的柔軟性も好きだし、軽々 と常識を飛び越えてしまう言葉の斡旋が生み出す思いがけない世界も魅力 的だが、この句には勝てない。特に緊迫する空間を比喩してみせる「石榴 の夜」は俳句の力を思い知らされたような気がする。たとえばカッと口を 開けているザクロとか、タネをはじくザクロの実とかの現実ではなく、「劇 団」という小さな宇宙の中で「石榴の夜」という言葉自体が内に思想を抱 えて立ち上がる詩だと思う。

あずさ:腰巻きお仙。


風車ぼくのネジ巻く神楽坂   いちたろう

姫余 Mitsuhiro

姫余:「風車」の作品って、私自身最近みなくなったせいか、とてもこの言葉 が懐かしく、尚かつ、中句が新鮮に感じられました。

Mitsuhiro:妙にリアルに風車が目の前に現れます。

あずさ:シトシトッピッチャン。

蟷螂の枯れて一輪挿にあり   遊月

一之 清久 

一之:枯蟷螂と一輪挿の瓶が一体と化してオブジェとなった。只今眼前、 「物」だけを提示して何も言わない強さ。向上句会の三年間を通じて一番の 秀句と思う。

清久:枯れて植物的になった、蟷螂の姿をうまく詠んだというだけでなく、実 は作者の心の中を表現している点が評価できる。

あずさ:昨年の秋、わたしの枕に蟷螂さんがちょこんと滞在しておられた。こ こで一句という心境にはほど遠かった。

遊月(自解):(自句自解は好きじゃないのですが)枯蟷螂のシュールさに惹かれ ました。

車座のとけてそれぞれ赤蜻蛉   足立 隆

健介 M.s.K. 

健介:「虚とは具象である」という私にとっての最も重要なキーワードの一つ を顕著なかたちで証明するべく試みられた、その大胆にして計算された措辞が 見事に一句に結実している、というふうに印象づけられた秀句。讃。

M.s.K.:赤とんぼってこよみの上の秋にはもう(暑くなってなくても^^;) 飛んでますがあの、フラフラばらばらに好きな方向に飛ぶ感じをよく「車座の とけて」にくっつけることを思いつけたなぁと感心しました。とんぼの少しさ みしげな雰囲気も句にぴったりです。

あずさ:谷内六郎の世界

隆(自解):この句は、その時の最高点を戴いた句です。いつも自分以外が最高 点でしたから、そういうこととは無縁と思っていましかたら予想外のことでと ても嬉しかったです。これは、車が題でした。まず、車座が出来、その輪が崩 れる時のことをイメージしてみたものです。遠くから見えた風景と思っていた だければ。しかし、大して深いことではありません。何と言っても、向上句会 が終ると言うこと、寂しいです。

ストライクゾーンを壁に描く晩夏   朝比古

いちたろう 隆 

いちたろう:「ストライクゾーン」が肯定的な語に見える。「壁に描く」にはバー チャルなイメージ。「晩夏」にはフェイドアウトしていくイメージ。今みたい にひどい風邪をひいてふらふらしている時には心地いい句です。


隆:今回の、本命は「割れてゐる煮干しの腹や夜の雪」でしょう。とても良い 句です。ついつい取りたい誘惑にかられます。しかし、敢えて、今回はこの少 年期を思い出させてくれたこの句を選びました。

あずさ:白球残像。

朝比古(自解):今回の特選句会の自句の中では最も気に入ってます。自分も、 昔はプロ野球選手を夢見て、壁に向かってピッチング練習などしたものです。 そんな少年時代の夢の儚さを思い描きながら作った句です。

超特選1点句

お月様分度器界に君臨す   山口あずさ

薫 

薫:極小=極大。まるで量子力学の世界。(良く知らないけど)それにして も分度器界てふ語の選択センスに脱帽。しんくさん、もしかして中島らも のエッセィ読んでます?目黒寄生虫館へ行く話とか、気に入ってます。関 係ないけど。

あずさ(自解):半月という月のうちでもっとも相手にして貰えなさそうな月 を、クローズアップしてみたかった。

小春日の立ち食いうどん来世かな   けん太

パーシー 

パーシー:…が好きっす。何回生まれ変わっても「そうそう」と思うだろう一 句でした。

あずさ:姿の見えない客か?

けん太(自解):21世紀への期待感って。やっぱりこんなもんだったと確信し ました。

壜詰の月の発酵はぢまりぬ   杉山薫

(h)かずひろ 

(h)かずひろ:矛盾した表現ですが「ストイックな官能性」のようなものを感じ ました。

あずさ:美味しいそう。

薫(自解):凌さんのすばらしい鑑賞をいただいた幸福な句。朝比古さん、表記 まちがい訂正していただいてありがとうございました。あ、最近は辞書ひくよ うに気をつけてます。斗士さん、満月さん、ご明察。「はじまりぬ」は、とっ てつけたものでした。いらないですね。

全員がぼくを見つめる解毒法   いちたろう

いしず 

あずさ:蝦蟇の油?


月夜から戻ってこない一輪車   凌

遊月 

遊月:月のとてもきれいな夜というのは昼間とは全く別の世界を見せてくれま す。その異世界へ行ったきり戻ってこない一輪車。子どもが乗っていたので しょうか。不安が感じられます。

あずさ:ETに連れていかれた?

陽が射して冬の海鼠は冬の手に   満月

合歓 

合歓:引き潮の潮だまりが目に浮かぶようです。治まるべきところに治まって ゆくストーリーを詠んだ句でしょうか。ブルーグレーの透明な流れのイメージ です。リズムもいいと思います。内容が濃いながらあっさりと流れて行くとこ ろがとても好きです。

あずさ:美しい海にいるという海鼠。冷たい手の中に包まれている凛々しい海 鼠。

満月(自解):陽が射してなまこというやつにはいつもちょっと感動するので す。古い地球からやってきた感動の存在に捧げました。

夜汽車からはじまる私立美術館   鬼灯

明虫 

明虫:公立に対する私立の対比、それと「夜汽車からはじまる」ことの理 由のない関係性がうっすらと感じられて想像力を書きたてられた。この美 術館は星だけが出ている夜に秘密メンバーにのみ開館が知らされる。蝋燭 ほどのわずかな照明が陳列物に当てられているようだ。さあ、汽車に乗り 込もうではないか。

あずさ:ポール・デルボー展開催中。

人間に火種などあり虫の夜   秋

秀彦 

秀彦:火種はあくまで火種。炎ではない。炎になるかもしれないし、火種のま まかもしれない。秋の夜、虫の音に耳傾けながら、身のうちの火種を見つめる。

あずさ:虫の居所が。。

秋(自解):「人間に火種・・」の句は虫の音を聞きながら色々に思いの馳せる様 を一句にしましたが、「人間に」というはったり的なもの言いが自句ながら、好 きではありません。

星月夜人はみな水槽であり   宮崎斗士

ぴえた 

ぴえた:宇宙と水の無限のひろがりを秘めたにんげん。大好きな作品です。

あずさ:人体の三分の一は水とか。


我が家の隠れペットや嫁が君   後藤一之

古時計 

古時計:やはりこの句をえらんでしまいます。

近づけば箱に似ている雪女   中村安伸

帽子 

帽子:この季語で作るとたいてい似てしまうが、この句は似てない。

姫余:「近づけば・・」の句は「箱ににている」が面白かったです。 それに しても、これで終わりかと思うと寂しいです。時々しかおじゃましませんでし たけれど、素敵な世界を有り難うございました。 

告白や矢車草の青とのみ   洋子

満月 

満月:そう、私も今、あまり何も言いたくない気持ち。青とのみ。このあとの 無言の時間こそが語り尽くせない多くを含んでいる。読者の中にしんしんとし た諦念を起こさせる。もっとも大切な「空(くう)」「間」を描いて秀逸。

あずさ:コードネーム「矢車草の青」。

洋子(自解):自分でとても好きな句です。満月さんありがとうございます。

月光に水音はつかれたでしょう   鬼灯

夜来香 

夜来香:月の光に水の音、ストレートに読んだら完璧に美しい世界、その満ち 足りた世界って、つかれるんだよね、という毒を盛りこんだところで、なお一 層美しい。否定しつつ肯定している技が好き。青山らしい視点が感じられて、 わたしの中では(超特選で選句したどの句もそうだが)いつでも口ずさめる句 となるでしょう。

あずさ:弱っているときには、月の光は身の毒かもしれない。

手を上げると霊柩車が止まる   満月

風子 

風子:どの句もみんな似たような印象をもちます。そしていずれもが作者 が作者の頭の中で納得し、感慨にふけっていて読者との交流の回路を、ど ちらかといえば捨てている、閉ざしている自閉的な気がします。そんなな かでこの句は情景を説明していないし、材料を提供してそれだけにとどめ ている。季語もなく定型でもなく、なぜ?それからどう展開する? かを 読者に想像させる。

満月(自解):手を上げるとこれからしばらくして祖父が亡くなりました。 予知句。いやいや、もう迫っていたんです。あとは手をあげるだけだっ た。。。


超特選句

黒猫の二百十日の欠伸かな   後藤一之

姫余:「二百十日」がきいていました。

あずさ:台風襲来の厄日、二百十日。自然現象に敏感なはずの黒猫が欠伸をし ている。台風に向かって、「来るなら来い!」とでも言うつもりだろうか。

割れてゐる煮干の腹や夜の雪   朝比古

あずさ:煮干の腹がこれほどロマンチックなものだとは思わなかった。

朝比古(自解):少々瑣末すぎる視点かと思っていましたが、最後の向上句会で の最高点句となり、高点句イコール好句とは限らないという事はじゅうじゅう 承知していますが、素直にとてもうれしかった。 類型はありそうだなと思い つつも、気に入った世界だったので押し切りました。季語には結構苦労した句 です。

雪兎智恵子のあをい眼を刻む   ひつじ

あずさ:世界が完結し過ぎていて、感想が書きにくいということを改めて発 見。

ひつじ(自解):突然「ちょっと気がふれたり純粋だったりする人はひとみが青 いに違いない。子供返りした老人と同じで。そうだ智恵子だ」と思ったのです が、あまり季語が気に入らなかった一句でした。投句した後で「レモン哀歌」 をチェックしたら「青く澄んだ目が〜」とあって、無意識の記憶がとてもとて もとーてーもー恨めしかった。

突然の雨に素足の人魚かな   山口あずさ

あずさ(自解):はじめて陸に上がった人魚姫は、ひりひりする足で大地を踏 みしめた。人魚だったころには何も感じなかったのに、冷たい雨が素足に突き 刺さる。

しわくちゃのタオルケットときゅうりかな   足立 隆

あずさ:タオルケットはお気に入りのものか。午睡から冷めてなぜかきゅうり に齧りつく田舎の子ども。エロチックに読むことも可能だが。。。

隆(自解):自分では最も気に入っています。特別意味はありません。言葉が自 然につながっただけですから、独善的であると思います。

書置きの言葉身にしむ髭を剃る   (h)かずひろ

健介:この最後の“超特選大会”では、もう一句、この句に惹かれた。「髭を 剃る」とうい展開がやっぱり上手かったなぁと思う。「−身にしむ」までなら 至って常識的というにとどまるけれど、下五が佳い。

あずさ:ボギー♪ボーギー♪あんたの時代はよかったぁ〜♪

(h)かずひろ(自解):髭を剃って駐車場まで行くと、ボンネットに猫の足跡が あった。そんな朝。


十三夜海を見てゐるさなだ虫   後藤一之

あずさ:A感覚俳句。

ほろ酔いの戦車がせり上がる歌劇   中村安伸

あずさ:主役:ドン・ガバチョ。

月世界高中正義と行けた   和夫

あずさ:ちょいとひねりが欲しい。

熱帯夜人魚の回す観覧車   けん太

薫:分度器界に惜敗した、スギヤマ超特選次点の一句。観覧車の動力は人魚。 北の海からカドワカしてきた人魚を観覧車の地下に詰めこんで。ガレー船みた いにこき使う。ぬめぬめと凶凶しい熱帯夜。ジュネ&キャロで映像化して欲し い。

あずさ:数匹(人?)の人魚が水平方向に回転するように泳いでいる。それぞ れの人魚が一本ずつ棒を握っていて、中心部分には歯車が付いている。いくつ かの歯車が噛み合わさって、垂直に回転する観覧車を動かしている。観覧車に は乙姫様が乗っていて、、、、、。

けん太(自解):去年、ボクはこの句にこだわっていました。この句会でそのこ だわりに確信をもちました。ありがとうございました。

王様は案山子になりし午後3時   さにー

あずさ:裸の王様ならぬ、案山子の王様。

秋虹や海沿いの道つづら折り   たか志

あずさ:リアス式海岸。

ふゆやすみ疑ってみる世界地図   みのる

あずさ:実は、オーストラリアでは夏休みだったのです。

泣き虫でおしゃべり好きな寒鴉   古時計

あずさ:三羽いる?

花野行き人力車には葦が乗る   ぴえた

あずさ:卒塔婆小町。

三日月は俺には狭し車海老   山口あずさ

あずさ(自解):どっかーんと存在感のある車海老。が、高級感は今一つだっ たりなんかして。。。


G線上のアリア僕らは冬の蜂   小島けいじ

あずさ:楽譜つながりだろうか?

土曜日の悦楽深し月の骨   杉山薫

あずさ:悦楽が深すぎた?

薫(自解):土曜日の悦楽深し月の骨またたぶさんの栄えある特選に感激。満月 さん、これ今みるとたしかに退廃の色濃いっす。やばい。悦楽、って使ってみ たかっただけ。

月冴える孤高の人に巡り合い   遊月

あずさ:もしかして、ツァラトゥストラさん?

遊月(自解):(自句自解は好きじゃないのですが)俳句を作るようになって、月 の美しさにハッとさせられることが度々あります。

去年今年世界はぼんのくぼにあり   千野 帽子

あずさ:「除夜の鐘が後頭部に直撃したような感じ」を想像してしまった。

秋出水ピアノを壊す一家あり   足立隆

あずさ:ピアノの上に乗って難を逃れた?

隆(自解):昨年の9月の集中豪雨の時、大叔父の家が水につかり、アップライ トピアノを壊さざるを得なかったと聞いたことそのままです。しかし、ピアノ を壊す時には大変な力が要るのだろうと思った。

柿もぐやふと蘇える記憶あり   萩山

あずさ:法隆寺の鐘の音?

入口のすぐまうしろがもう出口   凌

あずさ:電話ボックス?

波打ち際で新世紀が伏せってゐた   いちたろう

薫:波打ち際で新世紀が伏せってゐた去年からこっち、「新世紀」を詠った句 の中では文句なし我がイチオシです。そこはかとないオカシミ。

あずさ:ぜひ、裏返してみたい。

仕立て屋の恋する月の火照りかな   しんく

あずさ:パトリス・ルコント監督。

スケートの後ろ手ひかり点となる   またたぶ

あずさ:ものすごく広いスケート場、否、湖か。あれが少女の最後の姿だった。


鶏頭に青いホースが伸びてゐる   後藤一之

あずさ:どぎつい色のコントラスト。鶏頭の質感と、ホースの質感も対照的。

灰汁めいて雨は止まない九月かな   秋

あずさ:「秋霖」と言えば一言で済むような気も。。。

秋(自解):昨年の9月はひどい長雨だった、その頃の鬱感をある程度表出でき たかなって思っています。

摩尼車月の軌道の細りたる   杉山薫

あずさ:浪漫ちっく。

薫(自解):(h)かずひろさん、特選深謝です。仏教はお詳しいのですか。「車」お 題で苦しんでいたとき、チベット旅行をしてきた人と話した後にできた。仏様 のご利益だと思う。

屋上へジャズマン百人星月夜   足立隆

あずさ:屋上から月に向かって行進して欲しい。

隆(自解):この句は、つまらぬと思う。屋上と星月夜ではイメージのふくらみ はありません。せめて「地下の街」とか言えばよかったかも。

虫の音を消しつつ急ぐ通夜の家   萩山

あずさ:虫の音の消えた瞬間に「寂」とうい音が聞こえる。

髪を梳く手からキノコはわいてくる   けん太

あずさ:強迫神経症俳句。

けん太(自解):みなさんを、ちょっとびっくりさせたかった。成功した?

こぼれないようになみだを居待月   ぴえた

あずさ:スキヤキ!

パズルも月も泣くよ   ら印

あずさ:パズルは複雑そうに見えても所詮はおもちゃなのだ。泣かせてはいけ ない。まして、ただ輝いているだけの月を泣かせるとは。

どくだみの蝶々結びの間柄   古時計

あずさ:一生、こうしていましょうね。

裏切りし伯母かも知れぬ山葡萄   ぴえた

あずさ:すっぱい。


みちのくの血統睡るちちろ虫   秀彦

あずさ:由緒正しき蟋蟀。

秀彦(自解):夜に虫の声を聴いていると、自分がどこから来たのか(どこへ行 くのか)気なるもの。

鰐が目覚めて月光のあらさがし   杉山薫

あずさ:鰐のル・サンチマン?

薫(自解):たくさんのみなさんに採っていただいてびっくり。明虫さんの理知 的な鑑賞に底上げされた一句。健介さん、鮫ですかー。鮫には手がないし なー・・・・(意味不明)

戦車からフジワラノリカの白手袋   中村安伸

あずさ:平成バージョン、蒲田行進曲。

孔雀鳴く精霊舟の向かうより   朝比古

あずさ:黄泉の国の孔雀。

朝比古(自解):孔雀って結構大きな声で、切なく鳴くんですよねぇ。初めて聞 いたときはびっくりした。中七下5は演出過剰気味かもしれません。

振り向いてはお辞儀する虫   凌

あずさ:小学生の頃、デパートの屋上でカブト虫のつがいを買ってもらった。 一匹死んでしまったので、もう一匹を逃がしてあげることにした。窓のところ に自由放免したカブト虫を置くと、こちらに向かっててしきりに頭を上下させ ている。「逃がしてくれてありがとうって、お辞儀してるのよ。」と母が言った。 小学校1年生の夏休みだった。