第10回 青山俳句工場向上句会選句結果

(長文注意!)

クリスマスも終わり1998年も残すところあと僅か。思えばあっと言う間の一年でした。ちょうど昨年の今頃、NHK「あなたも歌が詠める」の収録があって、これに併せて大急ぎでHPを立ち上げたのでした。本誌と連携する形で通信句会を開始。手探りで続けた青山俳句工場向上句会も無事第10回を終了することができました。
みなさまのご協力、心より感謝申し上げます。
インターネットでの情報のやりとりには様々なものがあって、悲しいニュースもありました。俳句がなぜだか好きになってしまった我々には、インターネットは宝物。来年もより一層、お互いの言葉に磨きをかけてゆきましょう。
この選句結果と同時に、1998年下半期超特選大会選句リストもお届けします。皆様の選句協力、重ねてお願い申しあげます。

向上句会とりまとめ:山口あずさ


投句:桑原伸、カズ高橋、後藤一之、岡村知昭、さとうりえ、松山けん太、蓮、村井秋、またたぶ、林かんこ、KURAZ、にゃんまげ、船外、和田満水、城名景琳、小島圭司、鯨酔、肝酔、早川文月、大石雄鬼・田島健一(以上2名、豆の木)、満月・山本一郎(以上2名、FHAIKU)、宮崎斗士・中村安伸・白井健介・千野 帽子・青嶋ひろの・山口あずさ(以上6名、青山俳句工場)

選評協力:足立隆



全体的な感想

けん太:1年間、楽しい、いい時間を持たせていただいてありがとうございました。集計、そのほか煩わしい作業、ご苦労さまでした。とにかく、この向上句会のサイトを見るたびに、意欲がわきました。今回の作品をみると、相当にレベルアップしていると思います。これからもよろしく。

一郎:今回はいい句が少なかったように思う。句に「厚み」のようなものが感じられなかった。

景琳:58句すべてに色とりどりで、季節の秋から冬の風が吹いているのが、わかりました。身近にある私的気分で選句しました。

圭司:今回はじめて参加させていただきました。選句がこんなに緊張するものだとは知りませんでした。今回は怖くて特選と並選3句しか選べませんでした。ごめんなさい。次回はもう少し勉強して選句したいと思います。

KURAZ:今回初めて投句しました。いろいろなタイプの句があっておもしろいですね。言葉のおもしろさプラスアルファのある句、作るのも選ぶのも難しいですね。

にゃんまげ:目のまわる忙しさのせいなのかIQのせいなのか、消化吸収の難しい句が多かったです・・・

蓮:彗星群の句が多かった。そのわりに、個人的な好みと合わず気に入ったものが無く、残念。まぁ、あの規模では仕方がないのかも。

秋:久しぶりに参加させていただきましたが、すこし通俗的で、短絡的な軽い句が多い気がしました。俳句は軽さも一つの要素ですが、ユーモアも可笑しさもない、ただ軽いのは如何なものでしょうか。

健一:選句遅れてしまって、ほんと、すいません。なんか、選句→投句のサイクルが速くて、仕事は忙しいしぐちゃぐちゃで落ち着きがないまいにち。もじばけ。

またたぶ:特選を選ばないのは我ながらふぇあじゃないと思う。でもそれだけ「特選」を「特選」たらしめたいのです。辛目評価が(自分はもとより)全体の向上へ向かうことを期しつつ。

帽子:あけましてというか、よいお年をというか。書いてるいまは日本だけど、アップされるころにはパリです。今月の向上句会は退屈でした。そう言うチノボーも見てのとおり駄句で(なまじ先月3句で21点もらっただけに心苦しい)率先して足引っ張ってます。反省中。いっしょに反省したい人は青山俳句工場「オレも悪かった」係まで。

健介:特選1、並選4、逆選1、すんなりと決まった。迷うことがないのは好いと言えば宜い。でもそれは(私にとって)採れる句が減って採れない句が増えたことをも意味している。う〜ん…

隆:今回に限りません。選句は難事です。

知昭:自分の中では選んだ句とそうでない句の差が大きかったような気がしました。それにしても今回から二句でしょう。出す句も今まで以上にきっちり選び、磨きぬかなければいけませんと自らによく注意を与えたところです。

伸:投句を2句に限定したお陰か、全体の印象が引き締まったように思います。たくさんの句を読めないのは残念ですが、好結果を出しているようで、喜ばしいことです。


12点句

狼の薄く眼を開く初時雨   後藤一之

特選:雄鬼 特選:満水 特選:健一 特選:かんこ 秋 健介 ひろの カズ 

雄鬼:狼というちょっと悲しげな動物。童話ではいつも悪役だが、私はこの句に年老いた狼を想像する。その狼のほんの小さな視界の中を初時雨が降っているのだ。狼の関心をちょっとだけ引いて。
秋:初時雨を狼の薄く眼を開くと形容したのを初めて読みました。分かるような気がします。
かんこ:薄く目を開く、がいい。この狼の表情で初時雨が鮮やかに浮かぶ鋭い句。
健一:いいと思いました。
満水:狼の薄く目が開く初時雨 と言わぬところに真似できない世界を感じた
またたぶ:内容はわりかし正統的?なのに、リズムが「薄く/眼を/開く」ではやや軽い。「薄く眼を開く」「薄目を開く」よりこの措辞にするイミは?
帽子:「狼」も「時雨」も冬。となると「薄く眼を開く」と「初」が完全にかぶさってしまう。よってこの句は季語の説明をしているだけ、と見なします。
満月:薄く、がこわい。初時雨とぴったり。日本では狼に現実感がないのが弱み。
カズ:うまい。
健介:作者(推定ですが)の“得意技を遺憾無く発揮”といったところですね。見事。

9点句

黄落すグリコ男(マン)まだゴール前   またたぶ

特選:満月 特選:帽子 一之 安伸 りえ ひろの カズ 

りえ:まだっていうか、ずっとゴール前なんだよね。そう思うとあの笑顔も涙を誘うわ。うう、グリコ男!仮面ライダーの怪人みたいだし。
帽子:ジェイムズ&ギャング「ペプシマン」のメロで「♪グリコマ〜ン!」と歌ってしまったヤツが推定5人はいると見たが、どうか。歌ってしまったという人は青山俳句工場「グリコマン歌ったよ」係まで。先日アメリカ人主催のクリスマスパーティで営業(DJ)してきたが、持ちこんだパイオニアCDJは不調、会場のヴェスタックスはCDシングルを受けつけず、「ペプシマン」の出番はなかった。
満月:永久にゴール寸前のグリコの男。・・ったってキツネ目の男じゃないよ。黄落と永遠にゴールできない男とがあまりにも美しくも滑稽でかなしく響き合う。
カズ:楽しい句です。黄落がうまい。
一之:おもしろい。思わず「グリコ犯まだ捕まらず」と読んでしまった。
健介:「ゴール前」というのが意外と曖昧なんですよね。因みに私ならどう言うかですけど…<黄落やゴールはまだかグリコ男(マン)かなぁ…
伸:1年中ゴール前なので、季語が動くかな、と思っていたら、後日「俳句研究」誌上で、鈴木六林男氏の「グリコの走者手を挙げつづけ去年今年」という一句を見つけた。
安伸:慣れ親しんだグリコのパッケージの男の人を「グリコ男」と名付けたのが手柄ですね。黄落も決まっています。

7点句

雪がふりだすよ今度は嘘じゃない   青嶋ひろの

満月 斗士 健介 圭司 安伸 またたぶ KURAZ 

圭司:最初の嘘は誰についてしまったんでしょうね。
KURAZ:力強い口調でインパクトがあります。どこかで聞いたことのあるような科白なのが残念です。
またたぶ:ぬるいだけの口語詠が少なくない中で、あるラインをクリアしたかなーと思い、一票。
帽子:後半は嫌いではないので、苦手な「よ」がなければ採ったかも。「雪が降る」と何度も嘘ついてきて、信用なくしてしちゃったの?
満月:あなたがそういうのだからそうでしょう。でも、あなたって、おおかみ少年?今度はという叫びが切なくて一票。
健介:いままでの嘘は何のため?
知昭:冬の狼少年。でも定型感はいいねえ。
伸:ついに誰も出てきてくれなかった、狼少年くんは、八月生まれの雪だるまになったとさ。
斗士:「ふりだすよ」で切って読んだ。槙原敬之っぽくて好き。
安伸:ポップで、抒情的、槙原敬之の歌みたいな世界。こういうのもたまにはいいです。

6点句

夕映えに泣いてるような富士が好き   林かんこ

特選:蓮 特選:景琳 鯨酔 カズ 

景琳:あまりにも夕日が綺麗だと富士山も悲しいね。
鯨酔:勝手にしてくれと言いたい所だが不思議と心ひかれる句です。
蓮: しみじみとした良い句。富士を見る機会が少ないので良く分からないが、きっとこういう風に見えるのだろう。爽やかさみたいなものをかった。
帽子:サザンオールスターズが海を歌うのをやめて山を題材にしたという感じの、青春ムード歌謡もしくは1960年代グループサウンズのパロディ。上五中七、「エレキ」の音がします。
カズ:そんなときって、すごく寒いですよ。

聖夜このポケットティッシュ受け取れよ   またたぶ

特選:りえ 秋 健介 ひろの あずさ 

りえ:街角のびら配りさんやティッシュ配りギャル感涙の作だと思う。トナカイの着ぐるみなんか、こんな感じだよね。
秋:もてないのか、褪めているのか、クリスマスにティッシュを配っている。なんとも哀しい。
帽子:最初の三音で切るといえば攝津幸彦『與野情話』の「秋思かの夜汽車に余る刺身かな」「師走この笑ひの種を燻すかな」「書簡この硯に亡父甲羅干す」などを思い出します。読み返しているうちに、下五の措辞も悪くないかなと思うようになりました。
健介:配る身としての気分がよく伝わってくる。この口語調は利いている。
隆:寒空の下のティッシュ配り、腹が立つのは分かります。
あずさ:決して楽しい仕事じゃない。それにしてもポケットティッシュ配りって日本以外にもあるのだろうか。
伸:ボックスティッシュを配ると、たくさん受けとってくれそうな気がする。

冬虹が見えますセックスレス夫婦   宮崎斗士

特選:知昭 特選:健介 健一 雄鬼 逆選:肝酔 

雄鬼:冬虹がセックスレスというものとちょっと付き過ぎかなあとも思ったが、「見えます」というあっけらかんとした現代的表記によって、並選に選んだ。
健一:ちょっと、意識的に今っぽく作ったようなところが鼻につきますが、嫌いではないです。
またたぶ:おじょうず。技術点だけ。
帽子:ですますにしないほうがいいと思いますです。
満月:冬虹はさびしいしはかないけれど、思いがけず美しくも凛としたものに出会った印象がある。どうにも私の中でセックスレス夫婦と結び付かない。
隆:この夫婦、やはり若いのでしょう。今時のセックスレスなのですか?
あずさ:冬虹そのもの。
知昭:なんかこの句読むと夫婦がセックスレスでもいいように感じました。暖かいんですよ、一句の世界がとても。
肝酔:冬虹にセックスレスを取り合わせるのは、あまりにも、あまりにも芸がなくて、かつ季語がかわいそう。どうせなら、無季でも何でもいいから、ドキッとするような「セックスレス」俳句を期待します。
健介:とにもかくにも物凄〜くイイとだけ言っておきます。(話せば長くなりますので)

5点句

雲遠く校長先生の忘れ物   山本一郎

特選:肝酔 船外 かんこ KURAZ 

船外:一体何を忘れたんでしょうね。
KURAZ:ほのぼのとした気持ちの良い句です。忘れてきたものは、思い出でしょうか。
肝酔:「雲遠く」は伝統俳句的基準では季語にはならないのかもしれません。が、「遠くに見える雲」ならばなんとなく秋の「高い天」の彼方に浮かぶ雲を連想させます。この上五がその後の中七+下五の「校長先生の忘れ物」というごく自然な言い回しと取り合わされると、なんかすごく懐かしくなるような、ほのぼのとした郷愁を感じるのです。平凡な言葉の取り合わで、これだけの効果を生み出した作者の手腕に脱帽。大好きな句です。
りえ:「校長の机の上の夏帽子」を思い出した。
かんこ:遠い日の小学校の校長先生・・・。なつかしいなあ。
帽子:こういう句こそ季語に甘えてはどうでしょうか。
知昭:ノスタルジア全開の一句。しかし何忘れたんかいねえ。

蝶凍つるすべての蝶を思い出し   千野 帽子

特選:けん太 鯨酔 一郎 あずさ 

一郎:スケールの大きさを買いました。
鯨酔:化身となる前の妖しい体温が感じられます。下五が川柳調に流れたのが惜しい。
けん太:「凍蝶」という俳句独特の世界を、結構本気で表現し、それがまた成功している。緊張感が伝わってきます。
満月:この「すべての蝶」は蝶自身の生のさまざまな断片すべて、といふうに感じる。「思い出し」はいまひとつ表現に工夫が欲しいようだが、思い出したら「凍つる」すべての蝶とはどんな蝶だろう。想像がひろがる。
あずさ:断末魔。

看護婦に抱きしめられて冬牡丹   宮崎斗士

満水 伸 健一 肝酔 一之 

肝酔:これって、入院中に動けなくて看護婦さんに抱きかかえられた、というような句ですよね。私はそう勝手に思いました。「冬牡丹」だから。寂しい冬の景色には痛々しいくらい華麗な花、その花と周囲の状況の落差みたいなものを連想させる季語だからです。まさか、看護婦さんと病室で×××、というような昼メロ風のセッティングではないですよね。どうなのか気になって選びました。
健一:「抱きしめられて」があいまいな気がしました。なんか、正岡子規の句で似たような句があったような・・・
満水:美人看護婦に会って退院したくない雰囲気です
帽子:意味不明。なんとなくスケベ心をくすぐろうと企んでる句のような気がして退屈しました。
満月:抱き起こされて、じゃなく。うーん、白い制服に憧れる男の性を見たような。
一之:ポエジーがある。しかし「抱きしめられて」はやりすぎ。「〜に抱かれてをりぬ〜」くらいでは……。
隆:抱きしめられ、が少々くどいと思います。
伸:AVビデオというよりも、冬牡丹が日活ロマンポルノ的だ。

猫のけて犬の字になる冬日向   和田満水

蓮 帽子 船外 あずさ KURAZ 逆選:伸 

船外:寝込んだ隙に猫はちゃっかり我が胸の谷間に納まっていたり。
KURAZ:猫と犬の表現がユーモラスで好きです。犬の字という格好はどんなものなのか想像もできません。
蓮:なるほどなぁという句。やや考えオチ的だが、好きだ。ちなみに筆者の場合リの字になることが多い。
帽子:アイディア一発勝負の句といえばそれまで。でも今回あとふたつあるあまりに非猫的な猫の句よりはずっと猫的です。季語が状況説明に堕ちてるのが惜しい。
満月:大の字になるというのは知っているが、犬の字になるとは?それも猫をのけるとなる犬の字。むむむ???
あずさ:大の字ならぬ犬の字。この点はやはり猫でしょうね。のびやかな発見。
伸:犬の字が何やら作為的。

「じゃっ、切るね、あっ、それから」って秋の宵    KURAZ

特選:文月 伸 景琳 満月 逆選:満水 

景琳:秋の夜長におしゃべりは付き物。
文月:宵の長さがよく感じられるいい作品だと思います。(^_^)
りえ:「って」がちょっと邪魔っけだった。
満水:ここまでくだけると川柳を通り過ぎているように思う。好みの問題であるが、私は好きではない。
満月:光景が目に浮かびます。あまりに日常的なので台詞にもう一工夫欲しいがこのリズムのキレは買い。一瞬のパーカッションソロ。
健介:そうそう、ここからがまた長〜いんだよねぇ。有りがち有りがち。
隆:秋の宵でなくてもいいのですが「 」の中の発想はOKです。
伸:「じゃあね」と言った後ほど、よけいに話したくなるの、わかる、わかる、それわかる。
帽子:『ときメモ』か。とくに三回出てくる小さい「っ」は、男の妄想が生んだゲームキャラ女の台詞。さもなくば、そんな男の妄想につきあってゲームキャラらしさを演じるアキバ系女(それ系男の取り巻き有)の台詞。寒い。『めざましTV』のユーミンに送ってみては?

4点句

極月のノスタルジアという病   さとうりえ

特選:秋 知昭 一之 

秋:下宿していた頃を思い出して大変共鳴しました。正月に故郷に帰らなければ、侘しい。
満月:ノスタルジアといえば秋を思うが、ここでは極月。情緒にひたってばかりもいられない寒さと押し詰まったあわただしさの中でのノスタルジアは、やっぱり病気ですね。
一之:ノスタルジア、ゆきすぎるとたしかに病気。「極月」が利いた。
健介:「−−という病」という結び方には一つの“パターン”を感じさせてしまい、損。たとえば<病的なノスタルジアを十二月>。“十二月”の部分が具象だともっとイイ。
知昭:希望が人が最後にかかる病なら、ノスタルジアにはいつかかるのか。極月のころか、はたまた…。
伸:確かにノスタルジアは病。
帽子:そもそもnostalgiaはむかしの医学用語。「離郷病」という病名でした。よって中七下五は当たり前すぎ。まさかノスタルジアを病気に見立てるのを自分の発見というか手柄だと思ってお作りになったということはないでしょうが、もしそうだったらお気の毒さま。ねえねえ、辞書引いた?

秋の灯や十年日誌の空白日   船外

特選:KURAZ けん太 満水 

けん太:十年日誌なんて気の遠くなるような時間に思えるいまの時代ですが。何の日誌なのか、興味をそそられました。
KURAZ:空白の日に何があったのか、人の秘密をのぞき見たい気になる一句です。「秋の灯や」が別の言葉だったなら、三重丸です。
満水:几帳面な人でも日記を書き忘れる日があるのであろう。それが秋かどうかは日記を書かない私には分からないが
帽子:短調(マイナー)的味つけだけで勝負するのは、演歌を生んだ日本人にはあまりにも簡単すぎる課題。
満月:昔のことをあんまり思い出したくない私は、十年日記などつけたら皆空白日になりそう。
隆:十年を振り返ってのことか? それとも未だ長い十年か? いずれにせよ、空白の部分は思い出せない自分です。
あずさ:「秋の灯」に「日誌」では付き過ぎ。十年である必要もないような…

流星群ネコと並んで待つ夜更け   林かんこ

特選:圭司 船外 カズ 

船外:さっと一筋尾をひいただけ。すっかり風邪をひいてしまった。
圭司:主人と一緒に寒空を見上げているネコ。ネコは何を待っていたんでしょうね。
帽子:動物とくに猫をこういうふうに使われるたびに「その手を離せ」と言いたくなる。「ねっねっ、星空の下で猫とわたしが並んでる後ろ姿って、メルヘンしててカワイイでしょ」って言われてるみたいで。手握られたわけでもないのにゴメン。
満月:お宅の猫さん、よくつきあってくれますねえ、わが家なんか、、。Σ _)〜グースーヒ゜ー
カズ:流星3個、会社を休みました。

木枯の一号といふ色気かな   桑原伸

特選:カズ 安伸 帽子 

帽子:垢抜けてません?
満月:ほう、木枯にも色気がありますか。紅葉が舞ったからって?うーん、、、
カズ:「一号」と「色気」という表現がうまい。
健介:拙句に<凩はたとえばまぎれもなく男>というのがあるんですが、こちらの句の方の「色気」とは“男の色気”というのでなくて、やっぱり…ねぇ。イイですよねぇ。
安伸:「一号」を「二号さん」に掛けたうえでの句でしょうが、それを考えなくても「木枯」と「色気」の対応だけで十分おもしろいです。

竹輪麩を真打ちと決めおでん酒   白井健介

蓮 満水 伸 景琳 

景琳:おでんの竹輪麩がスキ。
蓮:今回、衝撃の大きかった句。自分の作るべき句を他人に作られた感じ。おでんダネにかかわる個人的な思い入れだが、でもでっかいのよ。そういうのってのは。
満水:類句がありそうな気がするが、竹輪麩で店の雰囲気が分かる。
帽子:阿部ショウ人(ショウの字がATOKに見つからない。竹かんむりに肖)という人は、女好きが作った女の句を「久米仙俳句」と呼びました(久米の仙人を知らない子はお父さんに訊いてみよう)。また、藤田湘子氏に「猫好きが作った猫の句や老人が作った孫の句はダラシナイ」という至言があります。チノボーとしてはそれに「酒好きが作った酒の句」も加えたいと思います。「真打ちと決め」というオヤヂフレーズが苦手。
満月:小味という言葉を久方ぶりに思い出した。庶民の日常でしょうか。
隆:熱燗や討入りおりた者同士(川崎展宏)を思い出しました。
知昭:演歌の一節(?)
伸:酒と食べ物の句に私は弱い。

月映る瓶より指紋拭い取る   岡村知昭

特選:にゃんまげ 健一 りえ 

にゃんまげ:月はきれいに見えたでしょうか?指は脂性でしょうか?
りえ:自己の存在を消すためなのか、はたまた犯罪の証拠隠滅か。詳細は次回!(おいおい)
健一:ほんとうに、月が映っていたのだろうか?ちょっと位置関係が不自然な気がした。でも好きな世界。
帽子:ちょっと構文がごちゃっとしてて残念です。
満月:うん、そうして。あたしがきれいに映るように。手垢がつかないように。

円天井(ドーム)から犀がこぼれる復活祭   中村安伸

満月 鯨酔 またたぶ ひろの 逆選:帽子 

鯨酔:復活祭ですもの犀がこぼれても不思議ではない。こぼれても神の祝福を頭に受けて、復活犀。
またたぶ:だいじょうぶ、敗者復活するだろう。
帽子:向上句会も工場本誌の句会も、「動物園的動物の句」が多い。ところで今回苦手な句はいろいろありましたが、逆選に価するだけの水準(いい意味での)を感じたのはこの句だけでした。カトリックに馴染みが薄いわれわれ日本人にはこれくらい押したほうがいいのかもしれませんが、「円天井(ドーム)」と「復活祭」は近すぎます。で、なぜいま春の句が?
満月:さい、さい、の音の重ねがちょっとうるさく感じるのはなぜだろう。復活祭をイースターと読ませて欲しいくらいだ。円天井をドームと読ませるのだからそれもうるさいが。イメージは何かおかしくていろいろなことが想像できる。

3点句

証明写真の胸元暗し天の川   田島健一

雄鬼 肝酔 またたぶ 

肝酔:「証明写真の暗い胸元」に「天の川」を見るというのはなかなかの詩人ですな。ちょっと飛躍し過ぎという感じも抱くけど、言葉の使い方も無理がなくてあまり嫌味じゃない。こういうまともに作られた作為的、文学的な句というのも貴重だと思います。
雄鬼:証明写真を撮ったら何かを暗示するように胸元が暗かった。それは証明という自己の存在のための写真に対するささやかな抵抗なのかもしれない。
またたぶ:そうです、証明写真はうさんくさい。
帽子:なにを思ってこの季語?
満月:ここになんで天の川なのか。天の川なら暗いものよりきらきらしそうなものから呼び起こされたい。
隆:3cm x 4cmとかの証明写真、何故か胸元は暗く感じられます。そのミステリーに気づくことに拍手。

一面の玉葱和む午後三時   にゃんまげ

満水 斗士 かんこ 

かんこ:こころも和む午後三時。
満水:和歌山県の農村にそのような景色を見たことがある。
帽子:下五がちょっと弱いかな。動きますね。
満月:午後三時はある独特の弛緩の印象のある時間帯。そうですか。午後三時には玉葱も和むんですか、って妙に納得してしまう。それも一面なのだ。おしむらくは「午後三時」はすでに私が試みてしまった。
隆:こういうのは好きですが、今ひとつ何かが不足。
斗士:玉葱が活きている。「和む」が見事。

千丈の谷の紅葉カラスかあ   船外

伸 景琳 けん太 

景琳:カラスも紅葉を見て鳴いてるね。
けん太:最後の「かあ」が好きです。気に入りました。
帽子:非常に嶮しいものをさすのは「千尋」。「千丈」は非常に長いものをあらわす語。つまり「千丈の谷」は、低いけどどこまでも高さが変わらずだらだらつづく防波堤のような谷。下五は芸人で言えば「誘い笑い」に相当して寒い。
満月:「はあ?」
あずさ:「かあ」でぶちこわし。
知昭:キーキーキー。「かぁ」がいまいちかなあ。キーキー。
伸:下五の「カラスかあ」がよい。ありそでなさそな感じがいい。賛否両論出そうですけど。

冬木を赤いクレヨンで塗りつぶす   村井秋

雄鬼 にゃんまげ KURAZ 

KURAZ:「きれる」という言葉が思い浮かびました。余程いやなことがあったのでしょう。
にゃんまげ:クレヨン、きれいにはみだしているかな。
雄鬼:冬木をスケッチしたあと、赤く塗りつぶしたのだろうか。クレヨンと具体的に詠っているが、やはりかなり心象性が強いと思える。
またたぶ:精神分析チックですね。あと一歩あれば推したい。
帽子:この句のばあい、破調が足を引っ張っているような気がします。惜しい。
満月:リズムが悪すぎる。散文になりきっている。感じはわからないではないが、リズムのテクニックでもっともっとこのテンションは上がるはずだ。

黄落期面接官の鼻、鼻、舌   田島健一

特選:安伸 秋 

秋:とてもいやな面接官だったのだろうな。厚顔で赤ら顔で、、、夢も希望も持てないのに面接を受ける辛さと言った所か。
帽子:「舌」がオチみたいでちょっとよかったです。季語がお座なりでは?
満月:?え?口は?目は?…つまり鼻と舌しか見えなかった。。緊張してたのね。で、黄落?たいへんですねえ、きょうびの就職は。。。
知昭:読点は何故つけたんですか。効果がないですよ。
安伸:人を感受し、評価しようとしている面接官の動物的な感覚の象徴として「鼻」が気にかかる、というのがまず的確であると思います。それにオチをつけるように欲望をむき出しにするような、あるいは人を食ったような「舌」が登場する。そのタイミングが絶妙ですね。

またひとつ白鳥を追い越して死   山本一郎

特選:斗士 またたぶ 

斗士:死の前に白鳥を感じるというのは、まさに的確と思える。上質のリリシズムが光る。
またたぶ:この句の「死」は「ザ・いわずもがな」。でも「またひとつ白鳥を追い越して」に拍手。
満月:そんな死が増えてますね。。。胸が痛みます。
帽子:スワンソング(死ぬ前の絶唱)という語があるくらいだから、「白鳥」と「死」は近すぎ。この組み合わせも句歴2年目にして見飽きた観があります。

乾電池一本足りず冬深む   さとうりえ

一郎 一之 かんこ 

一郎:心の中に何か足りないものがある、そんな感じでしょうか。
かんこ:不如意。ますます寒い冬ですね。
帽子:こういうときってついセコく「一本足り」ないようにしちゃうんですよね。チノボーも「ねぢ一本足りぬベツド」を書いたことが。思い切ってもっとたくさん不足させとけばよかったのに、と悔いてます。どうですか作者のかた?
満月:乾電池一本くらい足りたところで冬の深まるのは止められない。
一之:実感あり。「冬深む」がやや動く。私なら「冬籠り」にするが……。
健介:<冬深む一本足りぬ乾電池>とした方がいいと思う。理由は<臍の緒を母屋にしまひ兎狩る>のコメント参照。
隆:乾電池一本足りず、まではとても良い。

臍の緒を母屋にしまひ兎狩る   大石雄鬼

特選:あずさ 知昭 

あずさ:大切なものあるいは秘密の象徴として臍の緒が効いている。
満月:もてあそんでいた臍の緒をせっかくしまったのに狩るのが兎だとは。やっぱり棄てるか斬るかしなきゃ熊も猪も狩れないよ。しかも母屋じゃねえ。
健介:“切れ”がない句で「母屋にしいまひ兎狩る」という用言の繋ぎ方をすると間延びした印象になりがち。「(自分の)臍の緒を」「しまひ」忘れているという状況設定にすれば<臍の緒は母屋の何処(いづこ)兎狩る>となるかなぁ。
帽子:上五中七と下五とのつながりがよくわかりませんでした。
知昭:臍の緒を離れ、母屋を離れ、兎と向かい合う姿の確かなこと。私も親離れしなくては。

シェイキナベビィ八月生まれの雪だるま   山口あずさ

特選:ひろの りえ 逆選:KURAZ 

KURAZ:一見つながりの無い(?)言葉なのに、何故か意味があるように思わせてしまいます。
りえ:内田裕也を思い出してしまった。
帽子:中七の字余りが野暮。
満月:すみません。シェイキナベビーって知りません。
健介:「八月生まれの雪だるま」ってちょっとイイ。でもぉ…。
伸:「ツイスト&シャウト」を歌いつつ、内田裕也は南半球に舞い降りた。

赤い爪金魚つまんで梟へ   後藤一之

健介 健一 あずさ 逆選:かんこ 

かんこ:どきりとする句。イメージは鮮やかだけど、イメージの作り過ぎという気もする・・。気になる句。 
健一:世界が面白いですね。「赤い爪」はちょっと嘘っぽい。やりすぎ。もう少し切れがあれば特選。
帽子:「へ」じゃなくて「に」では?
満月:梟に金魚を与えるーー梟の嘴は金魚を切り裂いて、、、ううっ、眼球をカミソリで切る映画のシーンを思い出した。赤い爪は残酷の象徴なのか。金魚とはつきすぎ。
健介:叙述的な印象であるのと、梟が金魚を喜んで食べるかどうか疑問だが、ここまで毒々しくやってくれるとこれはこれで悪くないかな、と。
隆:この色彩感覚と残酷さ、好みです。
あずさ:赤い爪、あるいは女の残忍さがよく現れている。

君いつかサンタ殺人犯しけり   肝酔

特選:鯨酔 満月 逆選:斗士 逆選:一之 

満月:そ、それで私のところにサンタは来なくなったのか(;_;)
鯨酔:私のサンタクロースは父に殺されました。人それぞれのサンタ神話崩壊体験。被害者は何時の日か加害者となっていたのでした。
帽子:「いつか」が、なんか三音余ったから入れた感じがします。
一之:「いつか」と「けり」のミスマッチ。常識程度の「文法」はお勉強してください。
斗士:意味がよくわからなかった。

2点句

何もかも棄てて九月の蝸牛   小島圭司

特選:一之 

帽子:あまりぴんと来ませんでした。ごめんなさい。
満月:九月の蝸牛ってどんなんだろう。すうっとして空を見てるのかなあ。もはやもぬけの殻?
一之:たしかに、「九月」には、一年の節目的な感じがある。蝸牛は自嘲か。発憤したのか……。
健介:「九月の蝸牛」の雰囲気がとてもイイ。ただ「−−棄てて」よりも強い“切れ”が是非とも欲しいところ。終止形にして<何もかも棄てつ九月の蝸牛>としては?

カーブミラー欠伸してをり鳥渡る   大石雄鬼

斗士 肝酔 

肝酔:「カーブミラーがあくびをしている」という表現が面白い。確かにあの変な歪みは、あくびに似てますね。「鳥渡る」って、割とセンチメンタルな句を引出しがちな季語だけど、この句はそういう当たり前のルートを回避して、独自の面白い世界を描き出していると思います。
またたぶ:「鳥渡る」カンケイはよほどあっといわせられない限り、控えることにしました。ってここで表明するのは場違いですが。
帽子:切れの置き方が不安定な気が。犬も歩けば棒に当たる。風が吹けば桶屋が儲かる。カーヴミラーがあくびすれば鳥も渡る。
満月:カーブミラーって、いつもこっそりあくびしているの、知ってるよ。その上をはるかに鳥が渡ってゆくのもさ。ちょっとおもしろいが、ちょっとだけ。
隆:カーブミラーの角度はいかにも欠伸、ユーモラスです。
斗士:「鳥渡る」の、ぼんやりした感じをうまく引き出した。

あんぱんにミルク小春の無法者(アウトロー)   白井健介

帽子 秋 

秋:ユーモアがあっていい。悪がきを無法者というのが面白い。
またたぶ:「ひまわりの祝祭/藤原伊織」か?
帽子:「あんぱんにミルク」といえば1970年代刑事ドラマの張り込みでは? 『マルサの女2』にもあったか? 詳細をご存知のかたは青山俳句工場「あんぱんにミルクの真相」係まで。
伸:そういえば「探偵物語」では、工藤ちゃんは、いつも牛乳を飲んでいましたね。
満月:あんぱんにミルクを合わせたくらいで食べ合わせが悪くてどうかなるとも思えない。第一すごくおいしそうなメニュー。小春ののどかさとも合ってて、あ〜あ、無法者もヤワになっちまったもんだ。
隆:アウトローといわなくても無法者のままでいいのではないですか?

落ち葉道いっぷく老爺に煙り燃ゆ   城名景琳

特選:船外 

船外:自分では煙草はやらないが、いっぷくやている人は皆んな様になっている。特に落ち葉道なんかでは。
帽子:季語が状況説明に堕してます。中七の字余りが野暮。「いっぷく老爺」という造語は苦しい。それともこの「いっぷく」はふつうの副詞的用法? だったら「煙」と離す理由が不明。「煙」ではなく「煙り」と「り」を送ったということは、これは名詞ではなく動詞なのか? だとするとなにかが「煙りつつ燃えている」という意味だけどちょっと舌足らず。名詞なら「煙」が「燃」えるということになってこれも意味不明。なんてツッコムとこ多い俳句なの?
満月:煙が出ていれば当然なにかが燃えているんでしょう。一服もお茶か煙草が普通。すると、一服している老爺に落ち葉焚きの火が燃え移って、それを知らぬ老爺がにこにこしたまま煙を出して燃えてしまう様子が浮かんでしまうのです。
あずさ:H容疑者は、老爺にいっぷく盛ろうと鍋の蓋を開けた。煙がもぁあ〜と立ち上がった。

スズムシのまだぎこちないエロスかな   松山けん太

雄鬼 一郎 

一郎:がんばれ、「リ、リ、リ、リ、リ」がなめらかに歌えるように。
雄鬼:鈴虫とエロス。そういわれるとそういう気になってくる。それもぎこちないと言われると、そう確かにぎこちないという気になってくる。「まだ」は理屈っぽいから不要と思う。
帽子:「エロス」などと観念的に書いてしまうのは、エロスからもっとも遠いものですね。
健介:「スズムシの」という点が私には理解できませんでした。

哀しさを告天子(ひばり)は吾に告げぬまま   小島圭司

蓮 にゃんまげ 

にゃんまげ:陽気さの中の哀しさ。
蓮:茂吉を思い出したけれどあれはツバメのだったか。ひばりの抱く悲しみというのはどのようなものか。想像力を掻き立てる句。
帽子:「告天子」なのに「告」げない。…って、それだけ?
満月:哀しさというダイレクトな感情語が一句をこわした。告天子という表記と告げるもわざとらしい。
あずさ:漢字遊び。

魔法壜魔法使いにもらって雪   千野 帽子

安伸 けん太 

けん太:レトリックの楽しさで選びました。魔法瓶と雪なんて面白い。
満月:う〜ん、君は魔法壜で雪をふらせてるのか。私は尻尾で。。。
健介:この「魔法瓶」には期待できるよね。
隆:摂津幸彦さんを思い出します。このリズム。
安伸:「魔法瓶」の魔法という言葉はとても気になるものです。それを「魔法使いにもらう」というのは意外性はありませんが、「雪」の透明感に通じ合います。

素肌めくると風花咲き乱れているよ    満月

知昭 一郎 逆選:健介 

帽子:「よ」が媚びてて苦手。
健介:雰囲気は好きなのだが「素肌めくると」が感覚的にピンとこなかった。
隆:風花が咲き乱れるというのはやや無理では。
知昭:1つのからだがそのまま自然世界であり、小宇宙であることの発見を素直に、そして具体的に捉えてあってGOOD。
伸:放哉や山頭火を連想させる句。

小春日や法事帰りの茶碗蒸し   肝酔

特選:伸 逆選:カズ 

伸:法事帰りにほっとして茶碗蒸し、おいしそう。しかも小春日和、言うことなし。
帽子:「小春日」は冬の緊張からの軽い解放。「法事帰り」は儀式の緊張からの軽い解放。「茶碗蒸し」は軟らかい暖かい淡泊な食物。似たものばかり並べて、飽きません?

1点句

黒留の解かれし帯や星流る   鯨酔

けん太 

けん太:最後まで迷いました。先人に似た句がありましたよね。出来過ぎのドラマの感もありますよね。でも、この誘惑には乗らなくちゃと・・・。
帽子:「黒留」ってなんですか? 不勉強ですみません。
満月:黒留袖なら御祝儀でしょう。娘さんが嫁がれたのでしょうか。星流るではちょっと不祝儀を思ってしまいます。
あずさ:まぁ、天の川ということで。

砂糖塩麻薬も白し山茶花よ   村井秋

知昭 

知昭:確かに。しかし山茶花も「はい白です」とは答えづらいでしょう。こういう句は嫌味になりやすいけど、それがないのもいいよ。
帽子:「も」が野暮。「山茶花よ白いは砂糖・塩・麻薬」ではいかが? 改悪? まあ三つとも、白くないヤツだってありますが。
満月:サンタクロースのお髭も白し薮椿
健介:「山茶花よ」で採れなかった。いっそのこと最後まで繋げてしまえばいいと思う。つまり<砂糖塩麻薬も山茶花も白し>。

おおかみよ天に拳がとどかない   青嶋ひろの

鯨酔 

鯨酔:おおかみって狼の事でしょうね。おお神だったら次逆選も。
帽子:とどかなくて当たり前。

神木を撫でるべき手に落花生   岡村知昭

肝酔 

肝酔:なんかユーモラス。「神木」という聖と落花生のついている手という「俗」を対比させたところが面白い。自分を突き放して見てるから、独りよがりじゃない本当に通じるユーモアが生まれるんだと思います。
帽子:「べき」が理屈っぽい。

雀色時にひとり残されたオニ   カズ高橋

圭司 

圭司:かわいそうなオニ。
帽子:1年10か月の句歴のなかで、夕方+鬼ごっこ(or隠れんぼor缶蹴り)+孤独という作りの俳句は馬に食わせるほど見てきました。だれがやっても同じになってしかも失敗する題材。それとも文字どおりの「鬼」? 残念ながら鬼+哀愁の俳句もだれがやっても同じになるのです。
満月:なんだか雀とオニが遊んでいるような。。

身しらずを送るかときくさとのはは   蓮

圭司 

圭司:なんとなくこっちまで申し訳なくなります。はは、ごめんなさい。
帽子:辞書引いたけど、「身しらず」が「送る」ものなのかどうかまではわかりませんでした。言葉知らずですみません。
満月:どうもいまいちわからない。さとのははがなぜかな書きなのか、身しらずとは身のほどしらずのことだろうか。それは作者とさとのははとどういう関係なのか。その身しらずを送るとは?
健介:私には意味も意図もまったく不明でした。
あずさ:「身しらず」を広辞苑で引いてもそれらしき意味は見あたらなかった。が、母から以前「みしらず柿」について聞いたことがあったので、確認してみた。会津で採れる柿で渋柿なのだが、2週間くらい焼酎に漬けて渋抜きをするとものすごく美味しくなるのだとか。見てくれは悪いけど、とのこと。ちなみに「みしらず」をどのように表記するかは不明。

沢庵の噛む音とまる歌声が   桑原伸

蓮 

蓮:綺麗な句。話は違うけど、沢庵の音・お茶漬けの音を忌避する人の話をCMがらみで新聞で見たけれど、となると落語の垂乳根が廃れる日が近そうだなぁ。怖いねぇ。
帽子:どっちがとまるの? 噛む音? 歌声? 沢庵「を」噛む音ではなく沢庵「の」噛む音って、どういうこと?

ファゴットの呟く闇に霜の花   鯨酔

りえ 

帽子:作者が句想にちょっと酔っているのでは? 「闇」ってそうそう使えない言葉。
満月:ファゴットって、もふぁ〜〜〜んとしたあったかい音じゃなかったっけ??霜の花も溶けそう。

君がいる ページにつけた 「お気に入り」   早川 文月

景琳 

景琳:お気に入りの栞って、君の頁。
帽子:寒い。『めざましTV』のユーミンに送ってみては? ところで青山俳句工場本誌の句会場にあるパソコンのスクリーンセーバは工場長の好みでヒロスエ嬢です。
満月:よくわからない。パソコンにあるHPの「お気に入りページ」のことかな?それで?一人でいい気分になってないで、読み手が共感できるように書いてください。字開け無意味。

天才も泥棒も食う秋ご飯   松山けん太

かんこ 逆選:ひろの 

かんこ:けだし旨いものは旨いのであります。
またたぶ:凡人も変人も。 
帽子:「秋ご飯」って言葉はムリヤリすぎ。内容もただの理屈だし。そんなもんわたしだって食う。
満月:秋ご飯ってどんなご飯?茸飯?栗ご飯?泥棒の天才ってのもいるかと思うけど。
隆:「秋ご飯」はリズムがよくない、「秋の飯(めし)」の方がいいと思いますが。
あずさ:ようするに秋ご飯が美味しいということですよね。。。。

よかれあしかれ星座は猫を裏切らず   中村安伸

斗士 逆選:蓮 

蓮:よかれあしかれがキズ。どちらかに決め打ちすればもっとすっきりするし、他のことばが盛り込める。絞り込めてれば選。
帽子:この「よかれあしかれ」の効果は?
満月:星座が猫を裏切るか裏切らないか、裏切るとは何をすることで裏切られるとどうなるのかわからないところがいろいろ想像させる。が、よかれあしかれと言われればそれが星座であろうが猫であろうがどうでもいいじゃないという気になってしまう。
斗士:「よかれあしかれ」の深さ。

天使の尻に如雨露で水撒く   山口あずさ

帽子 逆選:一郎 

一郎:悪趣味。きらい。
帽子:短句。簡潔で好もしい。ちょっとマヌカンピス入ってますけど。
満月:天使の尻とは???昔栽培していた多肉食物にそういわれればそう見えるものがあった。ちょっとえっちな植物だったから何種類も集めてた(^^;)。読めば読むほどえっちになる句。
健介:「天使」という実はすごくいかがわしい存在とサディスティックな気分がとてもよくマッチしていて(俳句としてはともかく)趣味的には相通ずるものが……

クラス会しわの数だけ気にかかり   城名景琳

船外 逆選:鯨酔 逆選:あずさ 

船外:今日は社長になっていた島君が会費不足分を払ってくれた。これも気にはなった。
鯨酔:川柳ではないかと。
帽子:「川柳も悪くないけどね」などと言ってもらえるのは、ここがいちおう俳句の句会という前提があるから。川柳専門の句会にこれを出したら、「川柳をナメルなよ」と言われるような気がします。
満月:しわの数だけ何が気にかかるんでしょう?
隆:これこそ川柳です。
あずさ:いくらなんでも身も蓋もないのではないかと。。。

ひどいこと したのも忘れた 15年   早川 文月

帽子:そもそもこうやって「ひどいこと したのも忘れた」と発言できるということは、ぜんぜん忘れてないのでしょう。それはそれとして一字アキが野暮。
満月:うーん、何で字開けならぬ分かち書きなんだろう。何で忘れたといいながらそれがひどいことで15年前と覚えてるんだろう。
伸:ボブ・ディランは「16年16の旗が共同戦線をはった」と歌った。作者のこの15年は?
知昭:この句のことも忘れてください。

ぽたぽたと涙が落ちる点滴の   にゃんまげ

またたぶ:点滴句は湿っぽいとヒットしにくいかも。「月の橋でピアノ弾くような点滴/吉田透思朗」なんてどうどす?
満月:気持ちはわかります。が、点滴の、が謎解きに見えてしまう。
あずさ:答えを見せてはつまらない。
伸:点滴の辛さが、にじみでています。
帽子:「ママ、点滴って涙に似てるね」「まあ、この子って詩人だわ」。隠喩やアナロジーだけで勝負して褒められるのは6歳まで。川崎洋先生の「こどもの詩」行き。

発表日わびしき胸や広末来   蓮

帽子:下五の「広末来」が「唐太(からふと)の天ぞ垂れたり鰊群来(にしんくき)  山口誓子『凍港』」を思わせます。中七が発話者胸中の空虚ではなく広末さんの「微乳」のことを言っているのなら、「や」で切ろうとしてはいけないのでは?
満月:「広未来」は言葉として無理。発表日も不明確。五七五それぞれがばらばらの感じ。言おうとしていることが俳句の分量では無理なのに詰め込んでしまった。
知昭:つべこべ言うのもめんどうなので、名前を入れて一句(みたいなの)を作ってみました。
伸:はじめ「広い未来」って何ぞや?と思ったら、「ひろすえ来」と読むのですかね、なるほど。

ギブミーで白い手にやる龍の玉   和田満水

帽子:「白い」がちょっと曲者。半世紀前黄色い手にもらったチョコレートのお返しに龍の玉をあげるということでしょうか。この季語に「キブミー」が合ってるとも合ってないとも言えなくて、自信ありません。
満月:東南アジアの旅行吟?あれ、白い手?じゃ、日本に旅行にきた外国人に龍のひげの実をあげたって、それだけのこと?
伸:龍の玉から連想して、つい私などは「ギミーシェルター」と歌ってしまう。

ただいまに 答えてくれぬ テディベア   KURAZ

逆選:景琳 

景琳:言葉はないが、顔でおかえり。
帽子:答えてくれなくて当たり前。答えたら新井素子のホラー『くますけと一緒に』だ。一字アキも野暮。
満月:うーん、だから、分かち書きはこういう場合意味ないって。
伸:我が部屋にも、不似合いなテディベア。やはり何も言いません。
あずさ:こーゆー友達がいる。友(男性)は電話の最中にぬいぐるみ(くま)に話しかけたりする。もっとも彼のくまくんは「ただいまぁ」に答えている可能性がないとは言い切れない。。。

蛍光のページを入れば仕掛人形(オートマタ)    満月

逆選:知昭 

帽子: 「オートマタ」automataだから、仕掛人形は最低でも2体。ヘタすると大群かも(単数はオートマトンautomaton)。「を」なら「入る」は「はいる」と読むことが多い(「いる」と読むためには「に」のほうが多い)ような気がするので、中七は字余り?
健介:う〜ん…意味が解らない。
知昭:言葉の一つ一つがバラバラ。

夜半のくびつり 明日は天気になれ   カズ高橋

逆選:りえ 

りえ:飛躍もつながりも感じられなかった。
帽子:「ママ、首つりって照る照る坊主に似てるね(あるいはその逆)」「まあ、この子って詩人だわ」。隠喩やアナロジーだけで勝負して褒められるのは6歳まで。川崎洋先生の「こどもの詩」行き。