上巻へ
第22回 青山俳句工場向上句会選句結果 下巻

7点句

旅人のすれ違い続ける春障子   またたぶ

特選:いしず 秋 ぴえたくん とーきち (h)かずひろ 二合半 

二合半:「春障子」とはうつくしい言葉ですね。この言葉に惹かれてしまいました。
(h)かずひろ:夏でも冬でも秋でもなく、やはり春と納得しました。
秋:淡い春愁を感じます。旅人と言っていますが、この旅人には遍路さんを感じます。
ぴえたくん:心象風景とも感じられる光と影を選びました。
満月:障子はすれちがうことで開け閉めするものだから、<すれ違い続ける>に合わせたのではアナロジー的性格が目立つ。<旅人>も思わせぶりでよく焦点を結べない言葉だ。
帽子:<すれ違い続ける>のが<旅人>なのか<春障子>なのか不明。ことと次第によっては、「旅人とは春障子の開け立てのようにすれ違い続けるものである」というアナロジーとしてこの句が作られたかもしれないという、「最っ悪!」な可能性もある。もしそうだったらホント最悪だ。
健介:「続ける」とまで言わない方が宜しかった、と思う。

6点句

ひいらぎの樹液たっぷり時刻表   村山半信

特選:姫余 子壱 いしず あずさ 凌 

凌:う〜ん。惹かれる。
満月:<たっぷり>のところで切れていないので、助詞をわざとはぶいてたどたどしさを出したような印象を受けた。
帽子:下五の前の切れを最小限のものとして読んだ。つまり時刻表が樹液でどろどろ、と解釈した。そういうの、いいと思う。
あずさ:<樹液たっぷり>がいい。無人駅と見た。
健介:「樹液」と聞いただけで“そっち”の連想をしてしいまう私ってば。

ひまわりに亀裂あやうい午後になる   凌

特選:亜美 特選:いちたろう けん太 姫余 

亜美:亀裂とあやういは重なると思うのですが、たしかにひまわりには午後の亀裂という印象がある。
いちたろう:象徴としてのひまわりは、臆病なぼくにとってかけがえの無い「憧れ」である。そんな象徴に「亀裂」が走るのだ。危ういではないか、キッチュではないか、ぼくは動揺を隠せずひまわりを、この句を、守りたいと思う。
けん太:このひまわりは花びらが散った後のことと思って、読んでしまいましたが・・?びっしりと埋まった種子。それが壊れそうになる。「あやうい」と言わなくても十分なのですが。でも、なにか心を掻き立ててくれるものがあります。
満月:<ひまわりに亀裂>まではすごくいい。<あやうい>が言ってしまったような感じなのと、<になる>は蛇足っぽくて最後まで考えなかったような。
帽子:<亀裂>と<あやうい>の間で切れていると採るかどうかはともかく、<亀裂>と<あやうい>とが近すぎてくどい。

冬の旅まえもうしろもなかりけり   摩砂青

特選:斗士 特選:河童 またたぶ 半信 

河童:雪景色の中で一人。そんな感じがいいですね!遭難しないでください。
斗士:この心象表現の大胆さに感服。
またたぶ:類想ありそう。でも納得。
半信:花鳥諷詠なんて、細(こま)い細い! こんな時代、俳句はザックリとマクロに詠もうぜ。
帽子:強風ってこと?
5点句

一輪の椿話しの口火切る   萩山

二合半 健介 河童 ぴえたくん とーきち 

二合半:勝手に病床を想像してしまいました。これから重大発表があるに違いありません。
ぴえたくん:まるごと思い出せないのですが、大歌人塚本邦雄先生の作品に一輪の椿がこの作品に似た感じで詠われています。既視感が良い方向に作動して選びました。既視感も、その情景の絵画を観た事があるよん、とか、似た作品を知ってるよん、となると全然選べなくなりますが、全く違う表現で同じ一輪の椿の唐突さ、存在感がよく詠まれていると思いました。たくさんの俳句作品を読んでいないので、時々、それは有名な作品があって、パロディみたいな作品だよ、と選句を済ませてから教えてもらったりするのですが。。
河童:それまでの緊張感がとける瞬間って、こんなきっかけかも知れません。その後が口火を切るというのも反動があって面白い。
とーきち:「話の口火切る」というのだから会話(対話)が成立しない、居心地の悪い状況に面している作者。恋人同士ならこの沈黙もまた楽しいのだろうが、「一輪の椿」があるのだから、喫茶店ではないだろう。はたしてどこか?話し出すきっかけとしてほかの花ではいけないのだろうか?具体的状況は読み取れないが、場所がどこであれ、こういう不条理なシチュエイションにはよく遭難する。「何か」がきっかけで「した」という因果関係の説明的な俳句になってしまったが、この日常性には普遍的な価値も見出せると思い、選句しました。
満月:深刻な話なのか「大事な話」なのか。きっと後者だろう。椿は首が落ちやすい花だが、ここではむしろ話を見守る暖かな存在に感じる。この<一輪の>はこの場所が素朴な感じの室内であることを思わせていいと思う。
帽子:ただの思わせぶり。
健介:「椿」での“切れ”が弱い感じがするが、しっとりとした佳い句。

春寒の蟻は奇数で群れたがる   田中亜美

帽子 姫余 朝比古 秀人 けん太 

朝比古:主観的発見の句。「は」と「たがる」の部分、推敲の余地あり。
秀人:青年の恋春寒に身を寄せて、といった風情だろうか。アリはやたらに体を擦り合わせている。固体認識のための物質を擦り合っているらしい。
けん太:これは理屈の句。「奇数」って何か苛立ちを感じることはありませんか。ボクだけかもしれないけれど、そんなところが伝わってきて。でも、全体的には予定調和?を感じます。
帽子:<奇数>は常識から言って無根拠だが、1/2の確率で当たっている。季語の選択がまずい。これでは寒いから群れたがっているなどというつまらぬ理屈が発生してしまう。
満月:うーーん、蟻の数。。。暖かくなると偶数なんでしょうか。春寒と奇数は適度な距離でいい取り合わせのようでいてどこか納得できないのは<たがる>のせいか。
4点句

穴を出る一個旅団の蟇(ひきがへる)   後藤一之

特選:来夏 帽子 二合半 

二合半:冬眠から冷めて、ノソノソと食糧を取りに行くのでしょうが、出来れば同業者にボコボコにされて穴に戻って欲しい。意地悪?
来夏:啓蟄ですか。北海道に旅行に行ったとき、秋でしたが、雨上がりの知床で一個旅団のかえるに遭遇したことがあります。ただ前にむかってぴょんぴょんと飛ぶ姿は実直な兵士のようでした。
帽子:佐藤春夫「蝗の大旅行」を思わせて、懐かしい。

旅路とは何ぞや猫の冬日向   二合半

特選:谷 半信 (h)かずひろ 

半信:世の中なんて本気で生きてどうするの、という作者の生活スタイルが好きです。「何ぞや」が眼目であり、「何ぞやもし」とノホホンな伊予弁を連想させてくれるところが、またいい。
(h)かずひろ:持田香織のやる気なさげな雰囲気は環境に優しいのかも。
谷:「旅路とは何ぞや」がわかるようで不鮮明。気分に凭れているのではないか。全体の雰囲気がよいのでにしたが不満。
満月:おじいさんのセリフみたい。
帽子:<猫の冬日向>は舌足らずだが、それ以前に爺むさい贋もの臭い禅問答に作者の得意顔が浮んでしまって採れない。
健介:そういう難しいことはあんまり考えないことにして……

逆縁の列に加わる春の旅   いしず

特選:一之 またたぶ あずさ 

またたぶ:「春」と「死」って俳句界では近い。この句の読者に狭い読みを強制しないさりげなさを買う。
帽子:うーん、なんか大袈裟な。
あずさ:逆縁の列に加わったのは誰だろう。加わりたいとふと思ってしまったのは、わたし、かもしれない。

実朝忌うしろの正面誰だっ   ぴえたくん

特選:薫 万作 半信 逆選:秀人 

半信:鶴岡八幡宮で斬りつけられた源実朝、和歌の才逞しき一方で政治音痴であった姿が、ユーモアという視点で描かれた作品ととる。あの世でも、公暁とこんな会話を交わしているにちがいない。
秀人:うますぎて、ちょっと……。実朝ですか。気が付かなかった。やられてしまったという感じ。
杉山薫:力強い。「だ〜れだ」なら、兼好忌か?
満月:わ、わたし・・・とつい言ってしまいそう。「だあーれだ」ではなく<誰だっ>で、27歳でいとこに殺された実朝がぎょっと振り返ったようだ。
帽子:実朝って背後から狙撃されたんだっけ。だとしたらただの解説だ。勘違いだったらごめん。「實朝忌なりブルータスおまへもか」。

3点句

菜の花や地獄極楽ひとり旅   林かんこ

特選:万作 洋子 

満月:<ひとり旅>が安易。
帽子:下五のナルシシズムが中七で倍増。甘ったるい。
健介:中七・下五が若手お笑い芸人を使った番組タイトルを連想させる。

冥王星凍てつく夜のピクニック   (h)かずひろ

特選:すやきん 隆 

すやきん:冥王星は、水金地火木土天海冥の一番遠い惑星ですねえ。あまりに遠くて肉眼では見えないですが瞑想すると見えるのでしょうか?太陽のエネルギーがほとんど届かない凍てつく世界でござでも敷いて宴会するなんて、非現実的なロマンですね。
満月:星が見えているならたいてい夜。冥王星は凍てついている感じでもある。なにしろ冥=くらいだから。ピクニックも唐突。ちなみに辞書の冥のところを見ていたら「冥婚」というのがあった。死者同士あるいは死者と生者の婚だそうだ。これにはぞおっとした。
帽子:で? >
つっこみ!
あずさ:うーん、これに特選入れるかね。と、やはり正当派つっこみをしたくなりました。

サンクトウス響く僧院鱧を焼く   秀人

特選:(h)かずひろ 薫 

(h)かずひろ:異国情緒に満ちた夏の風景がリアルに思い浮かびます。
杉山薫:僧院と鱧が俳な感じ。寡聞にして思い当たらないのですが敢えてサンクトウスなのはなぜ?
帽子:ミサのSanctus(「聖なるかな…」)と<鱧>の関西風味が意外に合う。

啓蟄のものまね四天王楽屋   白井健介

明虫 半信 秀人 

明虫:意味的にわかってしまうけれど。
半信:「啓蟄」の季語がどうかとは思ったが、芸人たちが百千鳥よろしく囀る様子がほほえましくていただきました。
秀人:うまい。と、ひと言。啓蟄とものまね四天王がどうやって結合したか、これはほとんど宇宙の謎。詩的です。
帽子:で?
あずさ:<ものまね>って、<啓蟄>っぽい。ミメシス(←知らない人は辞書引こう)ということなのか。となるとそれほどの発見でもないか。。。

濁声のガイドもいたり神の河   林かんこ

特選:子壱 河童 

子壱:インドでの海外詠でしょうか。無季ですが、伝統俳句に近い発想ですね。
河童:ガイドさんというのは美声の持ち主という風につい思いますが、濁声って言うのも味があるかも?男性ガイドですよね?
満月:神と濁声を対照させてあるのか、神が乗り移って濁声なのか。後者の方がおもしろいイメージ。わざわざ<河>と表記してあるこの川はどこなんだろう。
帽子:詞書が略された観光俳句か。濁声のガイドって、わざわざ句にするほどおもしろいですか?

梅一輪月の兎のピアスにぞ   後藤一之

特選:秋 来夏 

秋:句想が清麗で、メルヘンの、心の遊びがあり素敵な句と思いました。
来夏:ちょっと出来過ぎでは?兎とピアスの組み合わせは好きです。
満月:童話イラスト。
帽子:「月にはうさぎさんがいるの。ううん、ほんとにいーるーのっっ! 月をバックに咲いてる梅のお花って、うさぎさんのピアスみたい、なんて思っちゃうあたしって、詩人だと思わない? あっ、ちょっと待ってよ。話を最後まで聞いてよっ。なんで逃げるわけ? ねえ、ねえってばあ」
あずさ:たいへんかわいい。かわいさにくすみがあるところが好ましい。
健介:こう考えてみると「キリンが逆立ちしたピアス」ってフレーズ、凄いインパクト…

からっぽのからだに詰める旅のめし   凌

谷 秋 すやきん 逆選:あずさ 

古時計:身も心も疲れたまま、旅に出てリフレッシュして帰る旅。旅のめしは、反省や思いやり等々でしょうか。
谷:視点によさを感じたが。「詰める」は理屈。作品をつまらなくした。
秋:無季なのが惜しいと思いますが、なんとも云えぬ漂泊感、無常感がいいです。俳諧味がいいです。
すやきん:おなかが空いた時の飯は最高ですね。
帽子:<からっぽのからだ>という言いかたがわさとらしくてイヤだ。
あずさ:旅先でお腹が空いたので、めしを喰った。ということを違う言い方でいっただけのような気がする。。。

卒業歌旅芸人の三代目   朝比古

特選:健介 満月 逆選:景琳 

景琳:二代目は、四代目は六代目は、ん、三代目か。
満月:なにやらゆかし。さぞかし転校を重ねて来たんだろうなというのと、逆に、三代目になれば、しかも現代なら事情は違うかもというのと両方思った。<旅芸人>はいろいろイメージを馳せられる言葉であるだけに出来過ぎている感じもしてしまう。とはいえ、このひっそりした雰囲気はとてもいい。
帽子:で?
健介:説明の要無し。すごく好いと思った。「卒業歌」が佳い。

風花の声聴くために立ちどまる   とーきち

朝比古 秋 輝 逆選:(h)かずひろ 

朝比古:「風花の声」ってイイ。下五は換えて戴きたいと思います。
(h)かずひろ:あのとき彼女は何を伝えたかったのだろう。風花の声より気になる人がいて・・・失礼しました。
秋:風花の声は確かに立ち止まって耳を凝らさないと聞こえないと思いす。やさしい天使の声と思います。すばらしい抒情詩。
輝:聞こえるはずのないかすかな音、このわざとらしさが憎い。  
満月:散文になっている。これはどこかで切って欲しい。
またたぶ:「立ちどまる」で平凡になってしまった。
帽子:「ねえねえ。あたしって、<風花>なんて言葉知ってるの。でね、でね、風花に声があるなんて、知らなかったでしょ? これって大発見じゃない? でね、それに気がついて、それを聞くためにわざわざ立ち止まったりしてるわけ。ポエムでしょ? こんなに季節感を大事にしてるあたしって、詩人だと思わない? あっ、ちょっと待ってよ。話を最後まで聞いてよっ。なんで逃げるわけ? ねえ、ねえってばあ」
つっこみ!
(h)かずひろ:あの感想だけでは、ふざけているように思われそうなので書き加えます。逆選にしましたけど好きな句です。物足りなく感じたので並選でなく逆選にしました。風花の声を聴きたくなったのは何故ですか?その訳が間接的にでも漂わせてあれば、句の中の「風花の声を聴いている人」が映えると思いました。

春は名のみの介護法静電気   秋

特選:夜来香 景琳 逆選:来夏 逆選:半信 

景琳:あ〜介護される日にも欲しい介護法。
半信:アタマだけ俳句をつくっている典型例だと思いました。冷やかすなら冷やかすでいいけど、詩の世界を持っていなくちゃね。「静電気」は、いかにも苦しまぎれ。
夜来香:名のみが春と介護法にかかっているのが効果あり。静電気でまたはっとする。
来夏:ごめんなさい。意味がわかりません。
満月:中途半端に風刺したような。<静電気>の俳句としては特異な対照が、<介護法>という社会性の素材に意図を持って並べられた感じでそこがちょっと気になる。
帽子:寸鉄人を刺した気の作者の得意顔が浮んでしまって採れない。

しやつくりはちゆうりつぷになるために   摩砂青

明虫 亜美 またたぶ 逆選:隆 逆選:ぴえたくん 

明虫:しゃっくりって、きりっとした急にたちあがる感じですよね。
亜美:しやっくりをのみこむ違和感と、チューリップの妙に人工的な質感、曲線の感触が近いのか。チューリップのやや開きぎみの花弁がしゃっくりを包んでいるようなのか。感覚的だが面白い配合だと思いました。
ぴえたくん:前回も平仮名表記が成功する場合とそうじゃない場合があると書きましたが、これは旧仮名&平仮名表記されています。そうすることの効果があまり感じられません。わたしも気分だけで無意味な言葉をくっつけたりすることがありますが、一応かわいい感じになるかな?とひそかに期待していますので、かわいらしさを受け付けてもらおうと期待することじたいお門違いなのだとわかっていますが、この作品も何かひそかに期待を込めて用意されたものなのでしょうか?
またたぶ:この句はこの表記でなければ……と感じた。「ために」は言いすぎかもしれない。でも、独特の感覚のみずみずしさ。
満月:おもいっきりかまととかと思った。でもなにしろ<しやつくり>なんだ。かまととを装った確信犯だな。
帽子:拗音促音を小さく書かない旧かなで、総かな書きの句、というのはぼくも作ったことがあるが、この句はちょっと成功してないと思います。だいいち素直に読むと字足らず、文字どおり読むと字余りになって坐りが悪い。
隆:平仮名の効果が出ていない。こういう方法はよほどの推敲とイメージの統一が肝要である。
健介:こういう句ってカマトトな感じがして好きになれない。(関係ないけど、初めワープロを打ち間違えて“しまくりは”になっちゃった)
つっこみ!
またたぶ:「平仮名表記といい、かまととだ」という感想が多かった句です。総平仮名表記に媚びられてるような気がして、パスしたことが何度もあります。「繊細さ」を詠むのはリスク高いとも思う。この句も予選では即パスしたんですが、「かまとと」以上の何かを私は感じる。亜美さんの選評は、私が怠慢して書かなかった(掘り下げなかった)こととかなり近い。
亜美:しやっくりをのみこむ違和感と、チューリップの妙に人工的な質感、曲線の感触が近いのか。チューリップのやや開きぎみの花弁がしゃっくりを包んでいるようなのか。
チューリップが苦しいですね、お子様度高いし、突かれるとディフェンスしにくい。片仮名表記にした方がいいとは思います。作者にさえ「別に大した意図はなかったんです」などと言われるかもしれない。それでも、この「しゃっくり」と「チューリップ」の配合に私は賛意を表したい。練る余地はあるでしょうが、定型にしたらとも思わない。まさしく「しゃっくり」の不可避性と字足らずが響き合っていると感じます。このままでは甘さは否めない。にもかかわらず、叫びにならない切実な痛みのようなものが私の耳には聞こえました。
帽子:ぼくの評でいちばん言いたかったのは、やっぱりリズムの悪さです。言われてるほど「カマトト」とは思いませんでした。あと、またたぶさん書いてらしたけど、「ために」は押しつけがましいと思いました。
またたぶ:去年自分でも「しゃっくり」の句を詠もうとした際、どうも定型に収まらなくて未完になってます。定型に押し込むとしゃっくりの(自分ではコントロールできない)無力・理不尽感みたいなものが萎むような気がしました。で、この句もリズムいいとはいえないけれど、「しゃっくり」にはこのくらいの「はみ出し感」が合うという思いが依然あります。

2点句

教室で菫まみれの旅終る   千野 帽子

来夏 あずさ 

来夏:ほのぼのです。教室で終わる旅は生徒の旅でしょうか?教師の旅でしょうか?学級崩壊が叫ばれる今日、ほのぼのとした卒業であってほしいと思います。
満月:教室で旅がはじまり終わったのか、どこかを旅してきて教室に到着して終わったのか、その辺があいまい。文体も好きでなく、納得させられない。
あずさ:<まみれ>を辞書で引くと「塗れ」とあって、「名詞に付いて、全体にそのものがついているさまを表す。」とあり、用例として、「血−」「泥−」と書いてある。(広辞苑より)。まみれは通常ネガティブな言葉につく。これを「菫−」とした手柄は大きい。

首落ちて低温火傷の春の旅   子壱

二合半 いしず 

二合半:低温火傷は時としてすごく気持ちがいいですよね。終わった後も「はっ」としないのが春の旅でしょうか。
満月:<低温火傷>は面白い。でも<首落ちて>は何だろう。
帽子:中七の字余りが野暮。ところでこのまえ、『とくダネ』(フジ)でむかしの製氷皿が金属製で指がくっついてしまうという話題になり、出演者のひとりが「あれは低温火傷してしまうんですよね」などと言っていた。「低温火傷」って炬燵とか懐炉でゆっくり火傷してしまうことじゃななかったの?
健介:基本的に「低温火傷」がどうのと言ってる状況じゃないのでは?

飛ぶ者は人も獣も一文字   いちたろう

来夏 青 

来夏:すいません。なんとなく好きです。
満月:これから短歌がはじまるような。お話が始まりそうなまま終わってしまった。
帽子:「者」を漢字にした狙いは?
あずさ:かなり好きな句。むささびみたいだ。

蛇穴を出づ没薬の苦き香   杉山薫

特選:帽子 

帽子:蛇穴を出づ没薬の苦き香 創世記でエヴァとアダムとがエデンの園を失うきっかけを作った蛇が、今年も春になって穴を出てくる。新約外典だか俗信だか、イエス降誕にさいして東方三賢王のひとりバルタザールは没薬(ミルラ)を捧げたとか。ミルラは蝶の標本などを作るのに防腐剤として使われたらしく、誤解から日本語の「ミイラ」の語源ともなった。楽園を出て滅するべき運命を引き受けた人間に、永遠不滅の形を与えるのは、なんと<苦き>作業であることか。なんてね。クリスチャンでもなんでもないんだけどさ。
満月:没薬の香りって苦かったかなあ。。たしか持っていたんですが。。春のむんむんする香りが伝わるような香りだったと思うんですが。。それを苦いと言ったのはいいとして、<苦き香>・・・「香が苦い」というのではないんですか?

豪州へ旅立つ前のうどんかな   足立隆

斗士 すやきん 

斗士:生活実感がある。細やかな設定の妙。
すやきん:分るような気がするけど、うどんは詩にならないですねえ。味噌汁にして欲しかったけどまあいいか。
またたぶ:「豪」と「うどん」が合っていておもしろい。
帽子:ただごと。

スキップして二月の風をまといけり    いしず

隆 健介 

帽子:「風をドレスみたいにまとうなんて、ポエムでしょ? こんなに季節感を大事にしてるあたしって、詩人だと思わない? あっ、ちょっと待ってよ。話を最後まで聞いてよっ。なんで逃げるわけ? ねえ、ねえってばあ」
健介:私、現在“いわゆる甘い句全体に対し寛容なモード”に入っているようで……「二月の」が好かった。

旅願望ぽぽんと弾んで年男   谷

夜来香 河童 

夜来香:ぽぽんという音がいい。この年男は24才ではないはずだ。
河童:違った意味で、ちょっと悲しい。句調の軽やかさとは裏腹に…。そう読んでは駄目でしょうか?
帽子:メルヘン男(男かどうか知らないけど)な作者の得意顔が浮んでしまって怖くて採れない。中七の字余りも野暮。

健やかにシナプス伸びる春の旅   杉山薫

特選:秀人 

秀人:オイディプス旅路のはての悲の器野蒜掘るホロコーストの夢のあとという感じでよかった。シナプスの使い方、勉強になった。
帽子:なんかわかるぞ、これは。上五中七がよい。<旅>がお題でなかったら、こんな安易な下五を持ってこなかっただろうと思うと、お題制度もよしあしですね。
あずさ:<シナプス>神経細胞と神経細胞または他の細胞の接続関係およびその接合部の称。だそうな。(広辞苑より)。んで、どうしたんだべさ。
健介:「健やかに」が余計な気がする。

「俺たちの旅」談義となりぬ花の宴   白井健介

帽子 斗士 

斗士:またまた同世代ネタ。どうしても落とせない。。まさにあのドラマの華やかさと寂しさは、観桜と合い通ずるものがある。田中健(オメダ)の妹役の岡田奈々が印象に残ってます。
帽子:この作りかたに納得。
健介:座語は“花筏”に抑えておくべきじゃないかなぁ?
つっこみ!
帽子: 特選候補でした。「旅」というお題の句のなかでは、他の追随を許さない出来なのではないでしょうか。うーん。もっと点が伸びると思ったのに。
斗士:千野くんは、けっこうあのドラマに思い入れがある?俺は中学三年生頃だった。
帽子:ぼくは中学時代に、再放送で見たんです。満月さんのおっしゃるとおり、自分の郷愁を誘うものには甘くなりますが、このドラマについては、じつはそれほど思い入れがあるわけでもないです。70年代のドラマで思い入れがあるのは、どちらかというと『必殺シリーズ』。満月さんは「いつもの千野らしくない」と思ったかもしれませんが、ぼくは自分では叙情派のつもりなんですね。この句のどこに惹かれたかと言うと、「旅」の題を固有名(ドラマ名)に折りこむことで、直接的な甘いおポエムをいったんは回避した点。じつはぼくも最初、地名「旅順」を使おうとしたのだけれど、この地名自体が日清日露戦争・旧満州などいろいろを引きずってて、ふだんならその怨念的含意を利用して句を作るのに、お題になってるせいかがちがちになって(ぼくは題詠が苦手)いくら作ってもつまんなくなったんで、ぼく自身おポエムなふつうの「旅」で作ってしまったんですね。それをこう、ドラマ名でやられると、まずいったんカギカッコにはいって「旅」のおポエム感が相対化されるでしょ?ところが第2点として、あのドラマ自体は叙情的な、うん、おセンチなといってもいいか、そういうドラマなんで、カギカッコのむこうではやっぱり「旅」の字が万葉集以来持ってる叙情性(よくる悪くも)みたいなものが、ちょっとフィルターかかった状態で仄見える。これはずいぶんと洗練された手口だなあ、と。作者はね、これは推測なんだけど、かなりそこんとこ計算してると思う。J-Popの作詞家が手練手管を使って、敢えてクサイ詞を書いてるみたいなね。これはね、ぼくの苦手な「詩」とか「詩歌」に漂う無防備な感情吐露とか個性の主張みたいなもんじゃないと思うんです。斗士さんもいうとおり、じつはドラマ自体がノスタルジックなトーンなわけです。で、飲み会が盛りあがってくると昔の話になるのは、これはなにも軍隊酒場だけの話ではなくて、たとえばいまの大学1年生なんか、小学校時代にはやったゲームの話とか、小学校時代にTVで見かけた「売れなかったころのSMAP」の話題で盛りあがるわけ。で、少なくともこれは日本だけの現象じゃなくて、たとえばフランス人の同世代の女の子と、中学時代にはやった音楽の話で盛りあがったことのある千野としては、ひょっとすると資本主義社会に普遍的に見られる現象なんじゃないかと思うのです。もちろんそれはカッコいいことではないかもしれない。でもなんかこの句にはね、そのカッコ悪さを許しながら、でもそれを対象化してどっか醒めてる感じみたいなのもあって、「俳」を感じたりしたのです。誤解があるようなので繰り返しますが千野は叙情派を自称しています。おポエムに叙情を感じないだけで。ちなみに、この句の作者の見当もほぼついてるんですよね。 満月:(帽子:もっと点が伸びると思ったのに。) ええっ!!同世代でない私には「なんじゃこりゃ」的世界です。悪いという意味ではないですが、さっぱり感覚が共有できない。<花の宴>も「荒城の月」とただの花見と両方思ってどちらも情けなさげというかやるせなさげというか、盛り上がってやがて消える運命というか(逆に冷えるために盛り上がるような感じも)。「あー、もう若くないんだよなあ」という、若いくせに中年っぽく回想的になってるような感じがする。そこまでいかないのかなあ。まあ、「旅」というお題の使い方としては他の句に比べると格段にいいとは思いますが。。 斗士:「あー、もう若くないんだよなあ」って、これこそがまさにドラマ「俺たちの旅」のテーマだったような気がします。でも主役の三人(中村雅俊、田中健、秋野太作)は大人になり切れなくて、傷つき続けるわけです。その点では「傷だらけの天使」も同じでした。
帽子:えっ。ダメですか?回想は高年齢だけのもの?たしかに回想を俳句に入れると大甘になるとは思うし、この句よりうまくできないと思うのでぼくはやりませんけど。 満月:いやそうはいいませんけども。うん、なにしろ<花の宴>で酔ってるし、<談義>という言葉がまたオジサン的というか。。。いつものチノボーさんの句に対する反応とはえらく違う気がして意外だったんです。自分のノスタルジーがあるものにはやっぱり甘くなるのかなあと。

旅の荷に野にあるままに赤のまま   とーきち

青 輝 逆選:子壱 

子壱:単に音の面白さで作ったのでしょうか?意味不明のような。 摩砂青:にという助詞の微妙なずれ方に、赤のままがよく似合う。 輝:赤のままを振りながら颯爽と野道を歩いて行く丁髷姿など思い浮かべます。 満月:に、に、に、でさっぱりわからなくなった。
帽子:間違っている。荷物にしたのなら、もう<にあるまま>ではないのだ。
健介:「に」の重複が気になった。

靴脱げる旅の途中で靴脱げる   けん太

隆 景琳 逆選:薫

景琳:やはり、厚底サンダルでは....
杉山薫:この調子の良さには感じるものがあるのです。(好き)自分の中で他の句と同列に採ることはできないけど、疑問の逆選。皆様の選評が楽しみ。 満月:なんだか泡喰っているようなところがおもしろいんだけど、それ以上の手がかりがない。 帽子:おまじない?
健介:サイズの合った靴の方がいいっすよ。

非都民と呼んでみたくなる慎太郎の夏   山口あずさ

景琳 輝 逆選:凌 逆選:健介

景琳:手数料かかってきたぞー>銀行!
凌:「慎太郎の夏」は「太陽の季節」にひっかけてる?、非都民どころか今や都民のヒ−ロ−慎太郎への八つ当たり?。
輝:迷惑を被る人たちには、腹立たしい限りでしょうね。
満月:どうぞお呼びください。としか言えない。
帽子:語呂が悪すぎる。ところでぼくは県民なので、つまり<非都民>だ。だからといって<慎太郎>といっしょにされるのはイヤだ。原発でも<慎太郎>でもなんでも、とにかく近くにあってほしくないものはなんでもかんでも地方に追いやってしまおうという東京都の発想には大迷惑だ。
健介:この句の作者は分からないけど、以前あった《「非国民」−》は好いと思った。でも、こちらの句はつまらない。
つっこみ!
あずさ:この句を取り上げると、政治批評っぽくなりそうですが、ちょっと取り上げたくなった。三国人発言は、やはりまずかろう。
帽子:選句結果直前に例の発言。狙ったかのようなタイムリーな展開ですねー。 あずさ2月25日投句締め切りなわけですから、外形標準課税で作句したということになると思いますが。(←作者じゃないふりをしての発言でした。^^!)

デンマークチョコレート買いに横浜へ   村山半信

特選:景琳 逆選:斗士 逆選:朝比古 

景琳:チョコレートはベルギー産が好きです。
朝比古:それで? 斗士:句の意図がわからない。「デンマークチョコレート」に何か深い意味があるのだろうか? 帽子:ただごと。ところで2月〆切の句会に<`ョコレート>の句が2句。どっちも…。
つっこみ
あずさ:これに特選入れるか?と、つっこみたくなりました。
斗士: だから「デンマークチョコレート」が謎なんだよね。独特な品質とかがあるのだろうか?その品質が実は「横浜」と、とてもよくマッチしているのかもしれない。。でもわかんない。

黄水仙三本摘んで旅終わる   室田洋子

夜来香 斗士 逆選:帽子 逆選:秋

秋:「黄水仙」「三本」に作者の思い入れが私には見えてこなかった。こう云う句が外にも幾つかあった。
夜来香:平凡だが、いい旅をしたという余韻が素直だ。
斗士:この「黄水仙三本」は、それぞれ違う土地にて摘んだものと解釈したい。旅の通過点としての黄水仙。情趣豊か。 帽子:で? ただごとにも風流ぶりにも取れる。
満月:なんで三本なのか。
1点句

浮木を干す冬の禁教令のなか   明虫

杉山薫:冬の禁教令に惹かれました。 満月:<冬の>は安易。<禁教令>そのものでもう厳しさを感じてしまうのでだめ押しとも感じる。むしろ春の禁教令だったらもやもやが内攻するようでいいんだけど。<浮木を干す>は<禁教令>とよく響いてすてきだ。 帽子:惜しい。<vリを干す>じゃないと思う。これではせっかくの<ヨ教令>が決まらない。方向はすごく好みだけど。
つっこみ
鉄火:今回の句会に参加していないのですが、書き込みさせてください。この句に点が集まらなかったのが意外な気がして、ちょっと腑に落ちない。
「浮木を干す」はおそらく焚火の準備だろうと捉えましたが、どことなく宗教的な儀式のようでもあり、かすかなレジスタンスのようでもあり、なかなかいいと思った。上五は「浮木を干す」じゃないと思う、という帽子さんのコメントも気にはなるのですが。たしかに「冬の」は満月さんの仰るとおり安易な印象を受けます。ただ、この句がありきたりのイメージから離れていることを考えたら、もう少し評価されてもいいような気がする。 斗士:私もこの句、気にはなったのですが、最終的に「冬の」で落としました。満月さんのご意見に全く同感です。100%同感。「冬の」の駄目押しが、クドく思えるのです。確かに「春の」だったら、句が俄然広がるような気がします。
帽子:まず、ぼくの立場をはっきりさせときますと、基本的にこの句はかなり好きだったんです。で、昨今の当句会でこの句に点が集まらないのはむしろ当然のことで、こういう渋目の句はどうも不利みたいなんですね。
(鉄火:「浮木を干す」はおそらく焚火の準備だろうと捉えましたが、どことなく宗教的な儀式のようでもあり、かすかなレジスタンスのようでもあり、なかなかいいと思った。)
ぼくもそんな感じで解釈しました。
(鉄火:上五は「浮木を干す」じゃないと思う、という帽子さんのコメントも気にはなるのですが。) 「これではせっかくの<ヨ教令>が決まらない」と書いたのですが、いま思うと、これはそのときの自分の体調などのせいで、そういう渋く淡い(でも裏は重い)作にたいして食い足りなさを感じてしまったのでしょう.「せっかくの」と言ってるだけあって、「禁教令」を持ってきた作者の手腕には感心してます。それだけに、全体がなんか「間違えないようにうまく作った、洗練された句」という印象があったんです。だからかなり悩みましたね、採ろうか採るまいか。 蓋を開けてみたら1点止まり。たしかにもっと評価されるべき句のような気がします。それだけに、鉄火さんのようにこれをこの場で評価してくださるかたがいらっしゃるのは、心強いことです。「つっこみ句会」やっててよかったと思います。 あずさ:わたしはなぜかバタ臭いと思って採りませんでした。<禁教>をそう思ったのだと思う。で、何か珍しいことは書いてないかと、辞書を引いてみました。
広辞苑(第四版)CD辞書:きん‐きょう【禁教】‥ケウ 宗教、特にキリシタンの信仰を禁ずること。「―令」
新明解 国語辞典:きんきょう【禁教】その国でその当時布教を禁じられた宗教←→正教
とありました。
あまり珍しいことは書いてなかった。。。浮木も調べて、こちらは「浮木の亀」、あるいは、「盲亀の浮木」なんて言葉を見つけて面白かったのですが、話がずれまくるので、書くのをがまんします。 ぴえたくん:話題からそれますが、ルビをふらない方が好きです。
薫:是非あずささんの見解、お聞きしたいものです。私しか採ってないとは思わなかったのでコメント簡単にしてしまったのですが。最初、「浮木」を何と発音するのかに興味があったので調べたところ、「うきき」、定型で読むなら「アバ」。漁業用語、釣り用語らしい。作者は釣人か?「浮木の盲亀」は志賀直哉。仏教用語だ。作者は釣人で、さらに隠れキリシタン。浮木を干して、仏像を彫る。厳しい禁教令の中信仰を黙々と刻みながら。 という妄想にしばし浸らせてもらえた。「誰もいない部屋」状態で楽しめました。「冬の」「のなか」、は疑問符ですが季節は冬に違いないと思う。
どちらの読み方にしてもルビふらないでくれてありがとう。でも、ほんとはなんて読むの?
あずさ:思わせぶりなことを書いてすみません。同じ言葉を辞書で調べて、下記のような説明に出会いました。このちょっとした差異が面白かったのです。句とは直接関係ない。。。あと、今思えば、なのですが、わたしがこの句を通り過ぎてしまったのは、<新宿の濡れているのは東口>を選ばなかったのと同じ理由のようです。このような世界を知っている人間には、上には上がいるだろう、という感覚です。新宿に関しては、じぶんが知ってしまっていた。またこちらに関しては、その世界を自分が知らないということから、この句がどの程度の深みを持ったものかを疑いました。バタ臭いと感じたのは、本物のバターではなく、バターみたいなものだと感じてしまったということです。
=======================
■広辞苑 第四版(CD辞書)
うきき‐の‐かめ【浮木の亀】「盲亀(モウキ)の浮木(フボク)」に同じ。夫木二七「うかぶてふ―のあひぬれば」もうき‐の‐ふぼく【盲亀の浮木】マウ‥[涅槃経](仏に)めぐりあうことが甚だ困難であることを、大海で盲目の亀が浮木の孔にぴったりあうことの困難さにたとえたもの。日葡「ソナタノゴカウリョク(合力)ヲマウキノフボクトタノム」
■漢字源(CD辞書)
【盲亀浮木】モウキノフボク〈故事〉〔仏〕目の見えないかめが、百年に一回水面に出て、海上にただよう浮木にであって、たまたま浮木にあった一つの穴にはいったということ。この世に人間としてうまれるのはむずかしく、仏法をきく喜びにめぐりあうのはむずかしいというたとえ。また、出あうことの容易でないことのたとえ。〔涅槃経〕
■新明解国語辞典 第四版 【浮き木の亀】[=海上に漂流している穴のあいた浮き木に、百年に一度だけ浮上して頭を出すというめくらの亀が出会って、その穴に頭を入れるという故事から、めったに出会えない意に用いられる]
=======================

日脚伸ぶ旅人にもどりたくなる   夜来香

とーきち

満月:以前旅人だったという設定だが、西行以来のにっぽんの伝統的「漂泊」志向をなぞっていてやや鼻白む。
帽子:<キ人にもど>るってことは、いま、定住してる自分は仮の姿だってこと? たまたま一時的に定住してるわけね? 旅芸人とかそういう人ならいいけど、「男はいつも旅人」みたいな比喩で言ってるんならかなり寒い。
健介:ルー大柴?

黒服のうしろに見える三日月よ   けん太

凌 

凌:これは葬儀屋の黒服だ。
満月:言葉が順々に並べてある感じ。<よ>で何かを感じさせようとしているが、どうもこの文体ではそれが見えない。これも短歌の上句的。
帽子:中七が緩い。
健介:いろいろな意味で『どうぞお好きになさって…』。

みづうみの旅帥(りょすい)でありぬ三日月は   田中亜美

(h)かずひろ 

(h)かずひろ:近視予防に遠くを見るのは大事だと思う(目も心も)。
満月:<旅帥>を調べた。ちょっと言葉が大仰過ぎる気がする。
またたぶ:表現が大上段すぎてパス。
帽子:ちょっとカッチョイイ系(ナンシー関が言うとおり、かっこいいとカッチョイイは違う)。好みではあるが。
あずさ:ちょっと世界に酔い過ぎのような気が。。。

湾岸の凍空(いてぞら)吸い込み加速する   (h)かずひろ

健介

健介:映画『湾岸道路』ラストシーンの「納豆定食ください」って台詞、いま思うと(俳句の批評ふうに言えば)“狙いが見え過ぎ”って感じかな。この句、ちょっとカッコよくてイイ。
満月:全部書いてしまったような。<吸い込み>はいらないのでは?
帽子:「加速すると、オレもマシンも風になるのさ。<>を<zい込>むなんて、ポエムだろ? こんなに季節感を大事にしてるオレって、詩人じゃん? あっ、ちょっと待てよ。話は最後まで聞けってっ。なんで逃げんだよ? おい、おいって言ってんだろ!」(ボコボコ)

空色の航跡かさね毛糸玉   またたぶ

とーきち 

古時計:お気に入りのセーターでしょうか、いつも着ている。いやーな毛糸玉もこんな言い方をすればきれいですね。航跡をかさねが利いています。
帽子:作者の得意顔が浮んでしまって採れない。糸を<航跡>に喩えるたぐいの隠喩は苦手。
健介:「毛糸玉」で思い出したんだけど、少し前に時々テレビに出てきたあの“手編みの先生”は妙だ。

鳥雲に金あるうちは旅すると   万作

谷 

谷:「金あるうちは」がつまらないようだが、作品を引き締めてもいる。遊びの面白さであろうか。
満月:という手紙を受け取ったのですね。上五の季語がはまっていて句になっているとは思うが、金のところを何か俳的な思考でとりかえてほしい気がする。
帽子:無頼を気取る作者の得意顔が浮んでしまって採れない。
健介:この句《鳥曇金あるうちは旅すると》なら佳いと思った。

伯林は旅のはじまり春深し   ぴえたくん

朝比古 

朝比古:ブルジョア俳句。中七は常套的かな。
帽子:わかるわかる。伯林って使ってみたくなるよね。「伯林歴山広場[ベルリン・アレクサンダープラッツ]木の實落つ」というただごと句を書いたことがあります。

シシュハモの真直ぐ凍り神の棚   子壱

満月 

満月:シシュハモとはアイヌ語でししゃものことだとさるところで聞いたが、それを知らなくても、なにか供え物がすっと横一文字に凍っている神棚を思うとこちらの背筋も伸びる。実に端正でいい。
帽子:よくわかんないっス。<神の棚>って、神棚とは違うんだよね、きっと。

振向いて竜胆の花旅支度   すやきん

姫余 

またたぶ:俳人ご愛用の「振り向く」。効かせられなければ陳腐なだけですが、どうでしょう。
帽子:ちょっと風流ぶり。

木蓮の蕾うながす遍路旅   萩山

すやきん 

すやきん:四国の遍路は懐かしいなあ。私は石手寺の近くで生まれました。道後温泉の産湯を使ったかは不詳。
満月:遍路と言って旅という必要があるのか。言っていることは他愛ない。
帽子:ひょっとして<蕾>の開花を<うながす>という意味だったら舌足らず。<遍路>が<旅>なのは当り前だから、<遍路旅>は日常語ではともかく俳句では無駄だ。ふつう<遍路かな>とするところだ。お題制度もよしあしですね。
健介:そういえばあの『娘遍路シリーズ』も、いま思うと懐かしい……。

雪に散る 微熱少年乱反射   神山姫余

洋子 逆選:河童 

河童:スマップみたい。微熱少年というのは死語では?
満月:<微熱少年>ポピュラーソングのタイトルかバンド名のよう。そういうコピー的な言葉を用いるのに<雪に散る>では甘い。しかも<乱反射>。オリジナルなイメージに乏しいしイメージ自体像を結ばない。
またたぶ:盛り込み過ぎて焦点がぼやけている。
帽子:上五はただただ恥ずかしい。中七は曲名(あるいはその作詞者による小説名)の借り物。下五はただの言葉。これでは鈴木茂も松本隆(「松本たかし」ではない)も浮ばれまい(死んでないって)。

ミレニアムとばりを開けてつづく闇   志摩輝

一之 逆選:姫余 

姫余:作品が、ミレニアムという言葉だけに頼っているように思う。
満月:新千年紀になってもちっともぱっとしない、という日常を、<とばり><闇>などの「詩」らしいと思われている言葉で置き換えただけのような。
帽子:寸鉄人を刺した気の作者の得意顔が浮んでしまって採れない。
その他の句

旅を待つ薔薇の香りに夜想曲   すやきん

満月:三つの目立つイメージを盛り込んでばらばらになった。
帽子:何度も言っているが「待つ」を無用心に使うと恥ずかしい。
健介:「旅を待つ」がいまいちの感じ。

たくさんの道に花花百人一首   谷

満月:花がたくさんあることを<百人一首>と見立てたんでしょうか。それとも道が多いんでしょうか。
帽子:で?

帳尻は得か損かの閏月   城名景琳

満月:これは単なる日常言語では?
帽子:セコイ。

手を固め天降る星にアッパーカット   来夏

帽子:<アッパーカット>している人物の年齢・性別・人数は定かではない。が、この句で表現活動をおこなおうという発想には、バブル期に芸能界が求めた「元気少女」的キャラクターを引き受けてしまったかつての森口博子や相原勇を見るときの痛々しさを感じる。

萬作の旅の歯どうでん橋崩れ   明虫

満月:よくわからなかった。どうでん橋ってあるんですか?
帽子:よくわかりません。
健介:意味がよく分かりませんでした。

とざされてやがて旅する君の胸   神山姫余

満月:頭の中だけでつくった感じ。
帽子:意味不明。下五が気持ち悪い。
健介:採らないけど、この句は嫌いじゃないです。

箱庭の旅粛々と神の如   いちたろう

帽子:<箱庭>が<旅>してるのか、<箱庭>を<旅>してるのか。
健介:「神の如」が好きになれず、惜しい気がした。

春眠の王様となり旅枕   城名景琳

帽子:<旅枕>って、ない語ではないと思うが、俳句っぽさにたいするこの無防備さはちょっと恥ずかしい。<王様>は好もしい。
健介:「旅」という題の場合はともかく《春眠の王様なりし草枕》ならば採りたい感じ。

タンポポの産毛を蒔かれる旅枕   来夏

帽子:<旅枕>って、ない語ではないと思うが、俳句っぽさにたいするこの無防備さはちょっと恥ずかしい。中七の字余りが野暮。

曇天のテニスコートに冬の蝶   足立隆

満月:曇天と冬、テニスコートと蝶は同質。つまりついてる。
帽子:ただごと。

帰る家なくて旅寝の空を見る   山口あずさ

帽子:無頼を気取る作者の得意顔が浮んでしまって採れない。

神社仏閣胎内なり旅は   秋

満月:神社仏閣と胎内はもろついているような。
帽子:自由律と思えばリズムのことは言うまい。問題は意味不明の倒置だ。

蓄えは冥土の旅に六文銭   河童

帽子:清貧を気取る作者の得意顔が浮んでしまって採れない。
健介:発想が“借り物”という感じで…ちょっと古いのでは?

渡良瀬のフーガの風に旅装解く   秀人

帽子:「風音に対位法があるなんて、知らなかったでしょ? これって大発見じゃない? でね、それに気がついて、それを聞くためにわざわざ旅装を解いたりしてるわけ。ポエムでしょ? こんなに自然にたいして敏感なあたしって、詩人だと思わない? あっ、ちょっと待ってよ。話を最後まで聞いてよっ。なんで逃げるわけ? ねえ、ねえってばあ」
健介:もしや「フーガ」と“風雅”の洒落?

生き恥をかき捨ての旅じき終わる   志摩輝

帽子:相田みつをから326に到る「人生説教」の系譜に属するこの手の句を書くのも、けっこう<恥>だとぼくは思うが、作者はそうは思っていないだろう。思ったら書くわけがない。
健介:「生き恥」の程度も“ピンきり”でしてね……へへへ…。

チョコレート一人寝に吹く隙間風   河童 

河童:昔、社員研修で本社に行った時に寮とは名ばかりのあばら家に2ヶ月いましたが、その時は寒さをしのぐために夜寝る前にチョコレートを食べていました。寝床も寝袋で、まるで室内でキャンプをしているようでした。4月といえども福井は寒かった!
満月:ばらばら。バレンタインのチョコレートを貰えなかったという話のようだけど。。。俳句を読みたいんですが。
帽子:狙いが見え見えでナマヌル。植田まさしの漫画とか中山秀征のトークみたい。

酒や酒炒り豆むさぼり福は内   二合半

逆選:満月 

満月:まっとうな逆選。
帽子:何度も何度も言っているが、老人が作る孫の句や猫好きが作る猫の句と同様に、酒好きテーマの句は安直な自己愛に陥るんだってば。

上巻へ