第26回 青山俳句工場向上句会選句結果

(非売品:売ってはいけない。)

超特選大会を挟んで、新規巻き直しの向上句会です。

俳句の感想treeBBSも順調に始動しました。互いに阿ることなく、俳句につ いて冷静に話し合える場として育てて行きたいと思います。

向上句会名物「ふぁいや〜み句じ」も中の句を一新しました。(前回の超特 選句が出てきます。)

また超特選大会では、逆選は付けないことにしました。

少々迷走もしましたが、今後は落ち着きを取り戻して、通常通り展開したい と思います。今後ともよろしくご参加ください。

投句:宮崎斗士、千野帽子、けん太、白井健介、後藤一之、満月、中村安伸、 いしず、朝比古、小島けいじ、鬼灯、またたぶ、ぴえたくん、足立 隆、杉山 薫、古時計、子壱、しんく、鉄火、南天、(h)かずひろ、主水、風子、秀人、秋、 山口あずさ

感想協力:明虫、いちたろう

全体的な感想

主水:初めて参加させていただきました。自句の不出来さはさておき、いろん な句を拝見できて楽しかったです。選句となると、当季の季語を使った句をど うしても選びたくなってしまいますね。

朝比古:暑い暑い。今回は正直、選句には苦労しました。

秀人:いろいろ考えて俳句を作っている……ということは伝わってくるのです が、吟味の時間が足りないままに投句してしまったのかなと思える作品があり ました。それぞれの句の部分について論じたいのですが、猛暑なので体力も低 下していますので、元気になってからにしたいと思います。皆様どうか、暑さ に負けずに、秋の秀句作りにお励みくださいませ。

けいじ:今回は、どれを逆選にしてくれようかと散々迷いました。いっそ嫌い な句全てに並選をつけてやろうかとも思いましたが、趣旨が違うのでさすがに 止めました。ですが今回、私の中には"逆選以下"も存在します。まあ、大し た句も創れない私がとやかく言うのも無礼な話ですが。

南天:前回、初めて投句しました。句作は初心者ですが、「つっこみ」での皆 さんの丁丁発止のやりとりが大好きでした。新しくなった「感想」も楽しみに しています。

明虫:今回は感想のみの参加になってしまいました。なにせ球で躓いてしまっ たのも一因で。次回は投句したいと思います。それにしてもHP維持のあずさ さんのご尽力に感謝しております。

ぴえたくん::関西人の血が騒いだ(=やるやん!)おもしろかった作品<まひ


るまのサルスベリィ・ヒル百日紅><イボ切りバサミ四方八方光放つ><日焼 してもうぎんぎんの占ひ師>

けん太:はっきり言って今回はいままででいちばん低調。まともに選句できな かった。選句を放棄しようとも思ったが、せっかくいただいた権利。なんとか 行使しようと努力した。いろいろあるが、見えすぎる句が多すぎた。想像力を かき立てさせて、いろんな物語を勝手につくることのできる広がりのある句が ほしい。まず、これだけは・・・。

風子:なぜか選句が苦痛だった。いままでおもしろく拝見してきたのに、急に 鑑賞する気力が萎え、感動を覚えることができなくなってしまった。だから満 足な感想も書くことができず、申し訳ない思いしきり。

鉄火:ふだん句を作る際は直球か変化球かとか考えているくせに、いざお題に なるとどうやって投げればいいのか分からなくなってしまった。

いちたろう:今回、恥ずかしながら「球」の句ができなくて投句できなかった のですが、みなさんもかなり苦労されたのではないでしょうか?一通り句を拝 見しまして、ふとそのように感じました。

(h)かずひろ:「泥球を白球と呼ぶ面妖の夏」そんな今日この頃、謹んで選句さ せていただきました。

古時計:今回は私好みの句がたくさんあって5句にしぼるのに苦心しました。

薫:球、難しい。って、お題の度に言っているような気が致しますが、思えば 簡単なほど難しいのかもしれません。つっこみ句会のありかた、など議論かま びすしき今日このごろですが、それだけこの句会が真摯に運営されている証拠 ととらえております。あらためて姿勢を正し、頭を垂れる次第。その割に我が 発言は相変わらず進歩なし。申し訳ない。不徳。

またたぶ:これまで、自作はともかく、でかい選評で通してきましたが、今回、 両方とも弱気です。「その方がいい」という周囲の声に負けず、早く立ち直り たい。

健介:全句にコメントするというのはやはり大変なことですね。千野さんは凄 い…。

斗士:【超特選大会に関するコメント】<いそぎんちゃくは他のお客様のご迷 惑になります  宮崎斗士>(秀人:これが「俳句」だというなら、「セブン イレブンは7時から11時まで営業しています」も俳句だということになるで しょう。緊張感も飛躍もありません。こんな扱いをされては、いそぎんちゃく がかわいそうです。 )

秀人さんへ。

「いそぎんちゃくは他のお客様のご迷惑になります」と「セブンイレブンは7 時から11時まで営業しています」が,なぜ同一の価値観で捉えられなければ ならないのですか?

「セブンイレブンは7時から11時まで営業しています」は単なる情報の伝達 であり、いわゆる一般通念として受けいれられるべきものです。

「いそぎんちゃくは他のお客様のご迷惑になります」が一般通念なのでしょう か?

お気に召さなかったかもしれませんが、あの句はひとつの私自身の世界観であ ります。

仮にも他者がそれなりに自らの俳句世界を広げていこうと試行しているものに 対し、あまりにも礼が無さすぎる言い方だとは思われませんか?


あなたは超特選の選評にて「まともな句がまともな評価を得られることが、現 代の俳句にとって重要だと考えているからです。」と述べておられます。

だからといってあなたの考えるところの「俳句」から逸脱したもの(作品)を、 その作者をも巻き込んで(作者名が明らかにされているのですから)、真っ向 から否定する権利があるのですか?  

「緊張感も飛躍もありません。こんな扱いをされては、いそぎんちゃくがかわ いそうです。」に関しましては、そう思われたんならそれはそれで結構です。変 なものを読ませてしまって失礼いたしました。

作者名が明らかになっている「超特選句会」にて、逆選をつけるということは、 それ相応の俳句作家(あるいは俳句愛好者)としての自意識と誠実さを持って なされていると思います。ゆえに私も自意識と誠実さをもって意見させていた だきます。

以上の文章は以前ゲストブック上にUPしたものですが、秀人さんからのご返 答がなかったので再度書き込まさせていただきました。

9点句

傷ついた真似が得意な蝸牛   小島けいじ

特選:秀人 特選:しんく 朝比古 またたぶ けん太 帽子 南天 

朝比古:主観的発見を表出した句。内容については同意でき得る部分がある。 ただ、個人的好みから言うと、この口語表現は嫌い。非常に説明的。

健介:この句はとてもよく分かる。確かにそういう感じがします。

あずさ:この句も好きでした。

けん太:仕掛けすぎ。もっと素直に、はっきりと表現してほしい。

秀人:取り立ててうまいというわけではないのですが、自然な感じがして、か たつむりらしい句であると思いました。かたつむりの這う速度と句の速度がう まく一致したのではないでしょうか。

またたぶ:「傷ついた」が「蝸牛」らしすぎると思 いますが、すみません、消極的な1票です。

いちたろう:川柳に近い句は、ぼくはあんまり興味ないのですが、好きです。 田舎の蝸牛のあの動きもぬめりも、鮮やかによみがえってきました。蝸牛社 (蝸牛新社?)とは関係ない句ですよね?

しんく:文化の違いかもしれないが、「ちょっと、その嘆きかたオーバーなん じゃないの?」と思う時がある。かたつむりは、どうなのか知らないけれど。

満月:自己愛的な印象がかなり来た。

南天:蝸牛のイメージがひろがった。

ぱらそるにわがままな耳ついている   古時計

特選:秋 特選:けん太 特選:いしず 斗士 鬼灯 風子 

健介:う〜ん…ちょっとこの感じはイメージできない。

秋:とても楽しい句です。日傘が時折会話によって傾くのを詠んでいるので しょう。「わがままな耳」に女性の容姿まで見えてきて、味が在る。

鬼灯:ぱらそるをさすのは女。女はわがまま。なっとく!

斗士:感覚で選んだ。YMO「君に胸キュン」的ポップさ加減。


けん太:作家の方には失礼ですが、特選句にふさわしい格あるいは強さみたい なものはない。新しさもない。なんとなく表現のおもしろさに惹かれた。

満月:けっこう簡単に想像できてしまうところが弱かった。

8点句

ニッポンを水母のように刺す琉球   ぴえたくん

特選:古時計 秋 秀人 またたぶ けいじ いしず 隆 逆選:主水 

秀人:シュールな作品と見るか、社会風刺の川柳と見るか、解釈の分かれると ころだと思います。沖縄でなく琉球としたのは「球」に沿わせたいためだった のか、作者の思想的背景があるのかよくわかりません。

またたぶ:着想はいいとして、ロコツ過ぎる のが惜しまれる。

秋:社会性俳句。いかにも「水母」よく表現できていると思いました。

主水:題詠であったにせよ「日本」が「ニッポン」で「沖縄」が「琉球」とい う表現に対して、内地の人にとっての沖縄は今でもどこかふつうの日本ではな い特殊な場所というイメージがあるのか、と感じる沖縄の人もいるのでは。ち なみに、沖縄の人間がまっさきにイメージする水母といえばハブクラゲのこと で、名前の通り毎年死者を出すほどの猛毒をもつクラゲです。チクリどころで はなく、沖縄という厄介な存在が日本という国を殺してしまう、という風にも 取る人がいないとも限りません。作者の方にそういう意図は全くない、という ことは重々承知しており、小学校卒業までを沖縄で過ごした私自身全く気にし ていませんが、インターネット上で公開されている句会なので、とりあえず書 かさせていただきました。

けいじ:日本を他人行儀に表現した上で琉球にぶつけているのが好き。

古時計:浮遊していて政策があいまいな日本を沖縄というくらげが一刺し強く 惹かれました。

満月:琉球の位置と形を言っただけという気もする。カツオヲノエボシだった らあんな形?

健介:「琉球」に失礼ではありませんか?

7点句

球面の尖る猛暑となりにけり   中村安伸

特選:薫 秋 秀人 ぴえたくん しんく (h)かずひろ 

(h)かずひろ:「球面の尖る」という表現を面白く思いました。

秋:この暑さで「球面の尖る」を実感しましたね。

秀人:たしかに今年は猛暑です。球面が尖るとはどういうことかよく分からな いのですが、マクロファージのCG映像などをイメージしておけばいいので しょうか。マクロファージがどういうものかよく分からないのですけれど。

しんく:どうなんだろう?不条理な表現を少し違う形で出せたならば・・・。

薫:今年は猛暑である。文句なしのこの暑さ、「球面の尖る」は良くぞ。こう いう、ちょっと気がつかないけど言われてみればああそうか、という句を読む とやられたっ!て気になります。しかも題詠。


ぴえたくん:実際の猛暑ってアスファルトもぐんにゃり煮えかねないけど、地 球の表面(球面)が尖って太陽に変身しそうな暑さ、わかります。

満月:意図はわかる。でも意図だけが前に出て感じが伝わらない。

健介:要するにとにかく暑いという意味合いは伝わってくる感じがしますが ……

日焼してもうぎんぎんの占ひ師   しんく

特選:主水 鉄火 健介 薫 帽子 南天 

主水:こういう占い師は人間的に信用できます。

南天:楽しい。ちょっとやそっとじゃ倒れないぞ、というつよさを感じる。「占 ひ」の「ひ」はいらないと思うけど。

鉄火:自分の好みです。日焼けしてぎんぎんになるのがいい。

薫:占い師、でいいと思います。「もうぎんぎん」なんだし。本来、闇と不可 分の占い師が日焼でぎんぎん、ってなんか俳味あっておかしい。

満月:<もうぎんぎんの>という俗語づかいがおもしろい。が、それが<日焼 けして>だったからがっかり。

健介:面白い! いやぁ〜この句はイイわぁ〜…。

6点句

かたつむり追い越していく気球の影   またたぶ

隆 古時計 健介 安伸 けいじ いしず 

健介:映像的な内容に魅力を感じた。問題点は「かたつむり」が主語であるの か目的語なのかが見分けにくいこと。<ででむしを気球の影が過ぎゆけり>な どとすれば一応わかり易くはなると思う。

けいじ:単純な作りの句だと思ったが、絵が気に入ったので。

満月:ゆっくり。のったり。それ以上のイメージが湧かなかった。

古時計:雄大でいてかわいい

土曜日のミラーボールという運河   中村安伸

特選:健介 特選:鬼灯 鉄火 秋 

健介:「運河」と捉えたところが秀逸。素晴らしい。無季の句だけど特選。

鉄火:よくわかる。ああいうのは本当に運河を通過するようなものです。

鬼灯:暗い感じがする運河に、花火でなく、ミラーボールといったところがよ い。

秋:週末のダンスホールの景でしょうか。「運河」が情緒のある生活感があっ て良いですね。

明虫:土曜日の色はグレイ。ミラーボールも運河もそう。ミラーボールの繋ぐ 役目は運河も土曜もそう。運河の水はミラーボールにも土曜にも流れているよ うだ。

満月:かなりいいんだけど、<という>が今回そのまま説明になっていてせっ かくの運河がつまらなくなった。


打水や看板蒼き武藤歯科   朝比古

特選:隆 逆選:秋 ぴえたくん けん太 いしず 帽子 

健介:“野山歯科”の二番煎じという感じがして不利。こちらの句はスベった わけでしょ?

秋:「蒼き」がひどくイヤでした。

けん太:これを選んでいいものか、最後まで迷った。新しくない。固有名詞の 普遍化もあまりできていない。でも、具体的でイメージはできる。うーん、ま だ迷っています。

ぴえたくん:青ざめた看板の悲壮感が「武藤歯科」の固有名詞でいっそう引き 立てられてる。

隆:武藤でも伊藤でもよさそうだが、ここはやはり武藤がいい。

満月:次点。落ちたのは<蒼>がぴったり来なかったせい。

欲深き球体みがく熱帯夜   鉄火

満月 斗士 薫 けん太 けいじ あずさ 逆選:秀人 

いちたろう:「みがく」という行為は何を意味しているのでしょうか。「なだめ る」では駄目だったんですよね?いまひとつイメージがつかめません。イエ ローモンキーというかっこいいバンドが、「熱帯夜」とか「欲深さ」とか「罪 深さ」について歌っていることと関係あるのでしょうか。グラムロック志向俳 句なのか、オタク志向なのか、判断できないです。??

健介:「欲深き球体」ってのはいったい何? でも何だか取り敢えずみがいて 欲しいという気がします、私は。

斗士:「欲深き球体」に魅力。神話的な味わいがある。「熱帯夜」も効いている。

薫:この行為はいかにも熱帯夜にふさわしい。「もっとみがいてよ」あくまで 欲深な球体。みがいたあとで汗まみれになっている作者をみがいてあげたい。 ←セクハラではありません。

満月:そんな球体がいたのか。。そうか、熱帯夜だからな。で、それをみがく。 とても熱帯夜にふさわしい行為だ。

秀人:若い人の作品なのでしょう。まだエネルギーが溜まっているということ でしょうか。球体の調子はどうなのか、ちょっと気になります。熱帯夜ですか ら、充分体調に気をつけてくれたらと願わずにはいられません。

あずさ:熱帯夜って、確かに欲が深そう。なんでだ?

けん太:熱帯夜のイメージはつかめてる。でもアタマの中でつくった世界なの で、響いてこない。

けいじ:欲深き球体をなかなか眠れない熱帯夜に磨いている。暗い情念では無 いのでしょうが、良いと感じた。

5点句

帰したくなくて夜店の燃えさうな   千野帽子

特選:安伸 鉄火 鬼灯 しんく 

鉄火:これだけでどんなシチュエーションなのか全部分かってしまうのがすご いと思った。


健介:どうあれ<帰したくなくて夜店を燃やしさう>ぐらいのことは言って欲 しい。(?)

しんく:なんか時代めいた色気のある句。古くさいとの声もあるかもしれな い。

満月:これはこれで情念型川柳の一句としていいのでは?

鬼灯:夜店の怪しげで、楽しい、雰囲気が伝わってくる。

春昼や地球最後のクラス会   山口あずさ

特選:帽子 特選:風子 満月 

満月:なんというのどかな終末感なんだろう。このクラス会は町なかの廃校み たいなところで行われている、きっと。

健介:意外にもこの「春昼や」が、じんわりとした迫力。上手い。

風子:地球最後のクラス会がなんとも独善的で気持ちいい。この次はしたがっ て当然にあの世でのクラス会を待つことになる。

完熟の人形しぼるように鳴く   満月

特選:南天 主水 またたぶ けん太 逆選:(h)かずひろ 

(h)かずひろ:「完熟」や「しぼるように」という表現は新鮮に感じました。

主水:「完熟の人形しぼる」はとても巧いと思います。「鳴く」のが一体何モノ なのか、ちょっと想像つきませんが、妙に気になります。

南天:一語一語が生きてると思う。

またたぶ:「人形が熟していったら」という発想 がまず怖い。「しぼるように」は「声をふりしぼる」という成句とともに「熟 した人形をしぼる」という嗜虐チックな連想を招かずにおかない。納涼向け 句。

けん太:完熟の人形をもっとわかるように表現してほしかった。イメージがほ とんど中途半端に開きかけて止まってしまった。

健介:私のとても好きそうな「人形」ですよねぇ…。

4点句

ちちははに胡弓のごとく凪いでいる   宮崎斗士

特選:鉄火 またたぶ しんく 

健介:………意味不明。

鉄火:それだけではバラバラな言葉が「ごとく」でかろうじて繋ぎとめられれ ていて、単なる直喩以上の働きをしていると思う。胡弓の奏でる静謐な緊張感 は、主体である自分と「ちちはは」との距離感か。

またたぶ:「胡弓」のことはあまり知りま せんが、「呼吸」なんて裏読みすると面白いかと思いました。

あずさ:年老いた父母か、あるいは、普段は嵐のような父母なのか。

しんく:風の盆を舞台にした親子の物語と言ったところか。

満月:<ちちはは>がいまひとつ像を結ばない。


水遊び球ふくらんでいくように   宮崎斗士

特選:ぴえたくん 安伸 南天 

南天:幸福な午後。

健介:読み返すたびに当たり前な感じがしてきて印象が褪せてしまう。

満月:球をふくらませようと念じているのか、ふくらんでいく球のように水遊 びをするのか?

夾竹桃好きなおとこが決められない   ぴえたくん

古時計 薫 安伸 (h)かずひろ 逆選:斗士 

(h)かずひろ:「一度寝たからって、自分の女と思わないでよね」と魚座、O型、 子守熊。

健介:あなたがそう思うのは自由です。端で見ている私が「あんた、選べるほ どのもんでもないだろ」ともしも思っても私の勝手です。てな訳で……

あずさ:じぶんのことを好きな男で妥協しておくのも一つの手かもよ。

薫:と、言うからには作者はおとこが好きなんだろう。おとこが好きでもおん なが好きでも、決めなくたっていいんだよ、とついおせっかいしたくなってし まいます。とってつけたような夾竹桃の花のいろ。

古時計:悪女らしくないいいまわし・・云ってみたい

斗士:嫌いな句ではない。「夾竹桃」もうまくはまっていると思うし。そんな 優柔不断なことでどうする! 花の命は短いのに・・ということで。

満月:夾竹桃ってけっこう鋭くてすぱっとしている感じがするんだけど。

3点句

まひるまのサルスベリィ・ヒル百日紅   主水

特選:けいじ いしず 

あずさ:サルスベリィ・ヒルって、どこかにあるのでしょうか。あってもなく てもいいけど、この句は駄洒落だと思います。

けいじ:サルスベリィ・ヒルって好きだ。すごく有りそう。全てが空想世界(言 葉が悪いがイカサマと言った方がニュアンスが正しいかな)の中にまとまって いる。

健介:私は“さぶぅ〜”と感じましたけど。

満月:<サルスベリィ・ヒル>はそれなりに面白いんだけど、後に<百日紅> をくっつけたのでだいなしにされた気分。

桜桃忌奴が突然球になる   小島けいじ

満月 しんく (h)かずひろ 

(h)かずひろ:「パターン青!使徒です!」

健介:それはコワイ…。

満月:桜桃と球はついてはいるが、桜桃忌だから球になるのだという必然が感 じられてリアリティがある。すごい題の使い方かもしれない。

しんく:奴って誰だ?


向日葵はら抜きことばの地球儀   鬼灯

薫 安伸 あずさ 

あずさ:なかなかよろしいんじゃないでしょうか。

薫:なんか意味不明なんですが、説得されてしまう力を感じます。向日葵って 若そう。ら抜きことばの軽快さ(善し悪しは別ね。)。あたかもら抜きことばが あたりまえであるかのごときあっけらかんとした向日葵。地球儀、は題詠故か もしれないけどちょっと強引?

健介:兼題の「球」を遣いたいが為のむりやりの「地球儀」という感じ。

満月:うーーん、私と印象が逆です。でも面白い。

炎帝の筆圧弱し月球儀   杉山薫

風子 鉄火 あずさ 

健介:「炎帝の筆圧」というのが私にはぴんとこなかった。

鉄火:「筆圧弱し」に惹かれて採りました。「月球儀」への落とし方はいささか 疑問が残りますが。

あずさ:そう言われると、弱いような気がしてしまうから不思議です。

満月:なんだか太陽が弱って月球儀に萎縮してしまうような。上五中七は面白 くて捨てがたい。

鉄球で砕かなければ秋は来ない   南天

特選:満月 帽子 

健介:“何を”砕くのか言ってくれないと……

満月:この断定。ものすごく納得させられた。

夜濯ぎや天球いよよ騒がしく   満月

特選:(h)かずひろ 隆 

(h)かずひろ:「騒がしく」という星空の比喩を印象的に感じました。

健介:どういう情景なのか、いまひとつ想い描けなくて……

あずさ:気持ちのいい句。

向日葵の始球式めく真昼かな   朝比古

斗士 秋 ぴえたくん 

健介:「始球式めく」というのが、どういうふうなことなのか分からなかった。

斗士:「始球式めく」という措辞に惹かれた。ただ「向日葵」とは若干つき過 ぎか。

秋:「始球式めく真昼かな」はなかなか言えている比喩だと思います。

明虫:始球式で思い出すのは、故小渕総理がアメリカ大リーグのどこかで始球 式をやっているシーン。テレビ(もちろん日本の)アナウンサーははしゃいで いたが、びっくりしたのは球場の観客(もちろん米国人)の多くが(よそを見 ているみたいで)まったく無関心そうだったこと。晴々とした向日葵がどこか 空々しく思うこともある。


満月:「向日葵の始球式」なのか「向日葵の真昼」なのか。<始球式めく>が いまひとつイメージが結べなかった。

ペンギンの早起きをする夏休み   山口あずさ

満月 朝比古 古時計 

朝比古: お子ちゃま俳句っぽい表現だが、結構好き。開放的なところがイイ。

満月:おっとりよちよちとした印象のペンギンが早起きをする、と言われてみ れば、そうか、いつもは寝坊ばかりしているもんな、とつい頷いてしまう。そ んな感じの子どものことだなんて言わないでね。

古時計:私はペンギンになれない

健介:失礼ながら小学生レベルですとまずまずという印象です。

腰痛に貼つて見ようぞ蛇の衣   後藤一之

隆 朝比古 健介 逆選:鉄火 

朝比古: 諧味のある句。腰痛に蛇衣はうまくいっていると思うが、中七の表 現はもう少し何とかならなかったのかなぁ。そこまで見得切らなくても・・・。

鉄火:こういうことを真面目な顔をして言われると困ってしまう。

隆:効くはずがないと思いつつ。

健介:自棄気味なところに可笑しみが……

満月:効きましたか?

月食に眼球を水洗いして嵌める   風子

特選:あずさ 南天 逆選:帽子 

南天:ホラーでもない、気持ちいいだけでもない。不思議な感覚。水のうねり を感じている指。身体的リアリティのある句だと思う。落語にもこういう噺が あった。

あずさ:好みでした。

健介:私には面白さが見いだせないタイプの句なんですよね。

満月:イメージはけっこう気持ち悪くていいんだけど、リズムや語順があまり に悪い。

2点句

この胸に花火の球根ふえはじめ   古時計

主水 鬼灯 

健介:「花火の球根」という措辞には無理を感じる。

鬼灯:花火の球根と可愛く言っているが、いつ爆発するのか?人は、一つや二 つは、持っていると思うと凄いよね!

主水:胸に睡蓮の花が咲く少女は知っています。線香花火の球根だったらそば にいてあげたい。(打ち上げ花火はちょっと近寄るのがコワイし、ねずみ花火 だとうるさそう)

いちたろう:高柳重信の「明日は/胸に咲く/血の華の/よひどれし/蕾か


な」を思い出しました。「ふえはじめ」ということは、数的に増えるというこ とですよね。球根が増えるということはどういうイメージなのでしょうか。 「ふくらます」ではいけなかったという必然性があったと想像するのですが、 その理屈がぼくにはわかりません。

満月:<この>と言わないで欲しかった。読者が入り込めない。

炎天や通過の駅で球が跳ね   けん太

特選:斗士 

健介:どんな「球」か言ってくれないのでは何ともコメントできないです。

斗士:電車の窓から真夏日の景を眺めている。その機微を「球」を用いて見事 に表現。共鳴句。

満月:なんだか言葉もイメージも分離していく。

球ひしゃげ静止している夏の午後   いしず

斗士 朝比古 

朝比古: 夏の午後のけだるさは表出しているのではないでしょうか。ただ、 あからさまに夏の午後と言わない方が、景が広がってくると思う。

健介:「静止している」などと言葉で言ってしまったのが野暮であったか。

斗士:けだるさの中にひそむ緊張感を書きとめている。

あずさ:夏と静止している時間は既視感があるが、いいと思います。

満月:一句を芸にするまでの読者の意識の誘導ができていないように思う。

1点句

肉球(にくきゅう)を火傷せしめむ夏薊   白井健介

あずさ 

あずさ:夏薊に意志があるようだ。

健介:果たしてこの「夏薊」は成功しているのでしょうか?

満月:この<肉球>を猫や犬のそれと読まず、肉団子(それも人間の(^^;)の ようなものと考えるとかなりの迫力が出るが・・・。

エッシャーの蜥蜴一瞬首をふる   秀人

ぴえたくん 

健介:まぁそおういうこともありそうですけど…。

満月:誰でも感じたことがあるかもしれない。もう一歩の踏み込みが欲しかっ た。

偽都市の驟雨は思考のみ濡らす   鉄火

(h)かずひろ 

(h)かずひろ:インターネットという仮想都市。サーバーダウンも驟雨と思えば 一興。


健介:かっこよさそうな雰囲気があって読者を惹きつけるような気がします。

満月:<偽都市>がイメージできなかった。

次々にあめんぼうの輪ホルン拭く   またたぶ

秀人 

健介:「ホルン拭く」を頭に持ってきたらどう? という気もします。

秀人:よく考えるとよく分からない句なのです。そこがいいのではないでしょ うか。「あめんぼうの輪」というのも随分[はしょった]言い方です。「ホルン吹 く」ではなく「ホルン拭く」というのも今ひとつ素直でないような。

満月:うーーん、突然ホルンが。。。??

あずさ:輪とホルンが少し近いかなとも思いましたが、いい句だと思います。

街中をしんとさせる蝉の羽化   けん太

風子 

健介:やや説得力が不足しているか。

風子:蝉の羽化する瞬間には、街をしんとさせる力があるような錯覚を覚え る。

満月:<させる>で失敗しているように思う。

干草や唸りくる記憶の白球   秋

風子 

健介:どうして「干草」なのかよく分からないけど<干草や白球唸りくる記憶 >としたらダメなのでしょうか?

満月:うーーんっと、干し草経験が少なくて、記憶の白球とうまくイメージを 噛み合わせられませんでした。

アロワナの花火雫に濡れゐたる   杉山薫

主水 

健介:「アロワナの花火」で切れるのか「花火雫」なる造語ということか、そ こが分かりづらい。

主水:今夜(8月2日)は神宮花火大会ということで、朝から「入場ペアチ ケット急遽譲ります」メールがあちこちで飛び交っていました。花火大会もボ ウリングなみに独りでは行きづらいものなのだと実感しました。

満月:アロワナってアマゾン産の魚でした?めずらしすぎて想像がおいつかな いです。

フライドポテトあたため直す白夜かな   白井健介

古時計 

古時計:あたため直す白夜ということばについとらされてしまう。

健介:うぅ〜ん…どぉでしょぉ〜(ミスター長嶋調)。


満月:白夜だから夜食?しゃきっとなるのかなあ、という現実的な感想に終 わった。

震度5弱置かれしままのソーダ水   子壱

健介 逆選:しんく 

健介:この句はこの句でいいと思うし……ちなみに私なら<震度5弱押さへて ゐたるソーダ水>としたのではないかなぁと思います。

しんく:で、ソーダ水が泡立つんだろうか?やっぱ、倒れるだろうね。

満月:<5>の半角が気になる。過剰に字間が詰まって苦しい。視覚も大事な 要素だと思う。

白馬岳(しろうま)へ登り地球を考えた   秋

鬼灯 逆選:あずさ 

健介:う〜ん……なるほど…。

鬼灯:この素直な表現が、さわやか!お花畑で有名な<白馬岳>が、すこし甘 すぎるかな。

あずさ:智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。 兎角に人の世は住みにくい。(『草枕』夏目漱石より)

満月:これ、好きなんです。コピー的で。でもかなりダイレクトなんで結局選 から落ちました。

月蝕や黄色ぶどう球菌狂いだす   いしず

けいじ 逆選:健介 

けいじ:やはり時事の感もあるが、それでもうまくまとまっていると思う。

健介:私の受けた印象では詩情に欠けるし洒落にならんし……逆選!

満月:月(黄色い)が蝕なので<黄色>の菌が狂った、というのではちょっと 安易に思える。

食卓をイルカがとぶと申すなり   鬼灯

主水 逆選:安伸 逆選:ぴえたくん 

あずさ:<申すなり>がなんともここちよい。

健介:せっかくだからとんでもらったら。

主水:ぜひ、わが家でもとんでほしい。

ぴえたくん:全然わかりませんでした。

満月:誰が言っているのだろう。<申すなり>がなんだかものものしくて おかし。

一球に一喜一憂缶ビール   後藤一之

秀人 逆選:南天 逆選:薫 逆選:けいじ 

秀人:こういう傾向の作品も評価すべきなのではと思いまして。どこかのビー ル会社が、コマーシャルのコピーとして採用してくれるかも知れません。売り


込んでみたらどうでしょうか。

薫:それは私の夏の姿である。「一」で上手にまとまっていて決して嫌いでは ないのだが、もうひとひねり欲しい。これじゃ松井にもってかれるぞ。特に逆 選にするほどではないんですが、犠牲フライ、といったところ。

けいじ:球→野球→ビールの流れはあまりに平凡。その平凡を平凡に繋いでも やはり平凡。つまらない句。今時、広告でもこんなキャッチコピーは使わない。 一を三つ並べたのは当然意識してのことであろうが、それもどうかと思う。

健介:欠点らしい欠点は見あたらないですよね。でもここまでよく分かり過ぎ ると常識的な印象が生じてしまうということがあるかも。

満月:現実レベルの軽い共感。缶ビールのコピーにもちょっと弱くて売れそう にないですが。

その他の句

如月の銀玉鉄砲ニスイ偏   足立 隆

健介:「ニスイ偏」というのは“冫”のこと? これの呼び方は(にすい)で 宜いのでは?

満月:如月の銀玉鉄砲は当たるとすごく痛そうだ。で、<銀玉鉄砲>にはニス イはないけど、どこにつけましょう?

曇天下ビーチボールに座り待つ   (h)かずひろ

健介:「曇天下」という中途半端な設定がいただけない。“待っている”という 状況に思わせぶりなテイストを漂わそうというのであれば寧ろ「炎天下」の方 が好いと思う。十代のスリムな女の子だととっても絵になるって感じ。私など がこんなことをすれば潰れてしまう。

あずさ:誰を? 何を? 情報不足のような気がします。

満月:何を?

炎天の野球をネタにダンサーズ   しんく

健介:これって“おやじダンサーズ”?

満月:<野球をネタにダンサーズ>がどう考えてもわかりませんでした。

印影に滴る文字や球結び   子壱

健介:「滴る」がぴんとこなかったのと「球結び」が取って付けたよう。

満月:滴ったかたちが<球結>んだよう?説明に終わっていると思う。最後の <球結び>のところで一発、芸をしてもらいたかった。

卓球のたばしる汗や雲の峰   秀人

健介:この「雲の峰」はぜんぜん効いてない。というより失敗という感じ。

あずさ:ビールのCM。

満月:きれいにおさまっていますね。とても優等生的な句だと思います。とり たてて面白いと思うところはありませんでした。


卓球と瀧で満タン電気汁   千野帽子

健介:Ki/oonRecordsの担当者に聞かせたら喜びそうなコピーだって弟が言って ました。

満月:電気汁がわかりませんでした。

イボ切りバサミ四方八方光放つ   南天

健介:「イボ切りバサミ」ってどんなふうなものだろう?

満月:事実イボ切りバサミだったのかもしれないが、一句の中で必然性が感じ られない。

新潟や吹雪く深夜の籠球場   足立 隆

健介:「籠球場」はふつうなら<体育館>と言うのでしょうね。「新潟や」が機 能できていない感じがします。

満月:<吹雪く>のはたいてい北国だろうから、わざわざ<新潟や>と五文字 を使う必要があったのか?

指ねらうアイスピックの夏の果て   (h)かずひろ

健介:「指ねらう」ことの根拠が分からないので言わんとすることが見えない。

満月:<夏の果て>はけだるすぎて<指ねらう>という怖い感じを得られな かった。

遠花火億兆の球体浮く闇へ射精   風子

逆選:満月 逆選:朝比古 

朝比古: 「遠」・「億兆」・「闇」とそれなりの舞台装置を用意して、射精 じゃぁ・・・。花火の見立てとしては陳腐だし、作者自身が射精したことを詠っ ているのであれば、ナルシシズムの度合いが強すぎて、辟易としてしまう。

健介:だらだらと長くて切れ味を欠く射精(?)か。

満月:射精を詠むのが悪いわけではない。あまりにも材料がぎゅうぎゅう 詰めで、しかもそのひとつひとつが自身に熱を持っている。読み終えてく たびれた。

あずさ:鮭が詠んだ一句。

ナイターの白球 十万の目玉が追いかける   主水

逆選:隆 逆選:風子 

健介:“五万の観客”=「十万の目玉」。単に理屈ですよね。

風子:つまらない。

満月:実際に「目玉」が十万個も空を飛んでいたら怖いだろうなあ。

隆:野球の句が多い中、これがいかにも技巧的で、それが逆選の理由。